ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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フランス料理とは?

 先月の23日、僕の盟友、亀谷シェフのル・ペガーズが閉店しました。最後の日の夜に伺ったのですが、店内は常連さんで一杯。飲む人、食べる人、泣く人、大笑いする人。こんなに人気があるお店なのに何故閉店するんだろうと思うところですが、実際には苦闘の連続だったようです。フランス料理はお金にならない、そんな言葉が浮かんできます。そして、悔しい思いで胸が一杯になります。本当に真面目に料理に取り組んできた亀谷シェフだったのに。
 彼はまた、お客さんを大事にする人でした。お客さんに付き合って夜遅くまで店に居て、家に帰れず、店で寝ていたこともあったようです。そんな彼だったので、閉店は本当に残念でした。
 何故フランス料理店は儲からないのか。まず、食材にお金がかかります。次に、手の込んだ料理が多く、サーヴィスも洗練さが必要とされるので、厨房・ホールとも人件費がかさみます。それなのに一組の食事時間が長いので、席を効率よく回転させることができません。概ね昼夜とも一回転で目一杯です。また、お店の内装や備品もセンスがよくないといけないから安直にはできないし。それに、毎日食べれるものではないうえお金もかかるので、リピートのインターバルが長い。亀谷シェフが閉店するという噂を聞き、あるお客さんが予約を入れて来られました。店の扉を開けるなり、その方は「どうして閉めるの。ひどいわ。」と怒ったそうです。でも、そのお客さんが最後に来たのは2年前だったとか。
 欠点を数え上げていくと、経営する側にとっては最悪の飲食業だと自分でも思います。そのうえ、常に批判の対象となります。正直言って、ストレス多いです。
 それなのに何故フランス料理に拘るのか。そもそも、フランス料理っていったい何なのか?
 ル・ペガーズの最後の晩餐会で、神戸の石井シェフと始めて対面しました。彼は、一日会という京阪神のシェフの集まりの現会長です。先ごろご自分のお店の名をピエールからピエール・ジパングと改称されたので、その時、その意味を尋ねました。彼はこう答えました。「フランス料理と言い続けることに疑問を持ったので。」
 日本で日本人の自分が日本人相手にフランス料理というのは如何なものかと。
 それは日本人シェフがおそらく全員胸に秘めている疑問だと思います。僕自身、一時期随分悩みました。
 でも、フランスのジャン・バルデというお店で働いていた時には、別の角度から疑問を持ちました。当時、バルデのアミューズグール(食事前の突き出し)はベトナム風春巻き(ネム)で、ベトナム人のお店からライスペーパーを買ってきて作るそれは、ネム以外の何者でもありませんでした。それを作っていたとき、「オレはフランス料理の修業に来たんだけど。」と大いに悩んだものです。でも、それはフランスのミシュラン二つ星レストランで出されて、フランス人が喜んで食べるものでした。
 つまり、フランス料理の定義といっても大雑把なものだということではないでしょうか。だから、石井シェフのように生真面目に考える必要はないのではないかと僕は思っています。むしろ、そんな自由さがフランス料理の魅力だと僕は思います。裾野に家庭料理があり、次にビストロ料理があり、ピラミッドの上に行くに従ってオリジナリティが要求される。但し、あくまでフランス料理的方法論とテクニックが感じられること。僕がフランス料理が好きなのは、そういう独創性が認められていると思うからです。
 狭義に捉えるならば、僕の料理はミチノ的料理に過ぎません。でも、フランス料理しか学んだことのない僕が、「オレがフランス料理だと思えば、フランス料理だもんね。」と言い切れる魅力がそこにはあると思うのです。
 ただ、それだけにハイレベルを要求されます。ちょっとでも気を抜くと置いてけぼりにされます。何年やっても勉強し続けないといけない。常にポジティブでなければならない。
 多分、僕はひねくれ者だから、逆にそんなしんどさが性分にあうんでしょうね。この仕事が好きだから、「わかっちゃいるけどやめられない。」なのだと思います。
 そうして、これがフランス料理か?とか言われても、僕は自分流のフランス料理を作り続けます。自分の人生がそれのみで終わるとしても、一生苦闘が続くとしても悪くはないな。周りは迷惑かもしれないけれど。
 安藤美姫がフィギュアの世界選手権で優勝したからといって、日本の政治がよくはなりません。だから何?と言われればそれまでです。でも安藤美姫のスケートに打ち込む姿は、観ている人に感動を与えてくれたはずです。
 亀谷シェフはどうやら、やっぱり懲りずに店探しをしているようです。盟友の契りは途切れないようで、僕は内心ほくそ笑んでいます。どうか皆さん、そんな僕達を応援してください。馬鹿な僕達が心血を注いで生み出すフランス料理は、皆さんの人生にきっと、感動とまではいかなくても、彩りはもたらすはずです。
 
 
レザール・サンテ!  オーナーシェフ 道野 正
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by chefmessage | 2007-04-18 03:23