ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


by chefmessage
カレンダー
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30

<   2001年 09月 ( 1 )   > この月の画像一覧

シェフの夏休み

 先日、ある方から、「テレビの仕事に熱心なあまり、お店の料理のレベルがさがるなんてことないでしょうね。」と質問されました。たしかに、そんなお店が多いのも実状で、だから、そう思っている方たくさんいるかもしれないので、この際お答えいたします。
 そんなことはありません。テレビの収録は2週間に1回、1回で2本分録ります。そして、その収録日は、うちの定休日である水曜日です。というか、水曜だったので引き受けたのです。だから、営業日には、あいかわらず店にいて、かならず料理作っています。
 「毎週、テレビに出ているのに、ちゃんとお店で仕事もしているシェフって、あまりいないですよね。」と、このあいだも同業者に感心されてしまいました。でも、それで当たり前だと思うのですが。ただ、正直言って、少し疲れます。それが、日常の業務に差し支えてないかと問われれば、なくはないでしょうね。だから、スタッフを強化したり、いろいろ策を練って対処していますが、やっぱり休むのが一番かな、ということで、今年の夏は4日間お休みをいただきました。
 毎年、ミチノの夏休みは、北海道で過ごすことになっています。というのも、うちでス-シェフだった河原という男が旭川で自分のお店をやっていて、彼も僕と同じく釣り好きなので、いっぱいポイントの情報なんか集めてくれていて、彼のところを拠点に、鱒をルア-で釣りに行く、というのが、毎年恒例の行事だからです。
 去年は、オホ-ツク海に向かって、胸まで水に入り、延々とルア-を投げ続けたのですが、ヒット2回、釣果はゼロと散々だったので、今年こそ、と意気込んで、電話で何度も意見交換。その合間に、お互いの店の近況を話し合う、ということをしていたのですが、ある時河原君が、「もう、店やめようかなと思う時があります。」と言うのです。何故かと問えば、やはりお客さんが少ない。だから、今以上に値段を落として、もっと食べてもらいやすい料理、例えばパスタとか、そんなメニュ-増やしたほうがいいんじゃないか、でも、自分としては、ある程度は納得のいく料理で勝負したい、でも経営は苦しくて。
 僕も、旭川の、いわゆる高級フランス料理店で働いたことがあります。もう13年も前のことですが、そのときも、「お宅はパンだけで、ライスがないからお腹いっぱいにならない。」という理由で来てくれない人が随分いて、面食らったものです。今では、もうそんなことないだろうけど、旭川という街も、地場産業の沈下で景気が悪く、年々、人口が減っていっているようなところなので、彼の店のような、どちらかというとマニアックで、ちょっと贅沢な感じのするレストランはしんどいだろうな、ということは想像がつきます。でも、だからといって弱音なんか吐くなよ、と、僕の立場としては言いたくなるじゃないですか。旭川で今の奥さんと出会って結婚して、子供ができて、自分のお店も持って、熱心なスタッフにも恵まれているんだから。プライドも大事だけど妥協も大事で、そのへんうまく折り合いつけて、もう少し頑張ってみろよ、と。
 でも、言葉だけじゃなぁ、オレも妥協できない人間で、彼もその辺よく知っているから、説得力ないよなぁ、と思ったのです。そこで、またお人好しが口をついて出てしまったんですね。「じゃあ、お前んとこの店の刺激になるよう、オレがフェアをやってやる。」
 今まで、この言葉だけは口にしたくなかったのです。夏の北海道、良き友と釣り三昧。なにより楽しみだったんだから。だから、一晩だけやぞ、他の日は釣りやぞ、と念を押して、メニュ-書いて、ルセットをfaxで送って、ワインを選び、食材の手配して。すると、しばらくして、河原君から電話が来ました。「反響がすごくて、一晩で二回転させないと入り切りません。それも、かなりお断りしてなんです。」。ミチノはきっぱり答えました。「二晩やったる。」
 結果は大盛況。自分でもたじろぐほど褒めちぎられ、雑誌と新聞の取材まで入って、やれ、このあと一席設けさせてくれ、とか、今年の冬にも来てくれ(冬の北海道には絶対行きたくない。)、とか、うれしい悲鳴だったのですが、さて、二晩のフェアを無事終えて、その後、不眠不休で車をぶっとばし、大雪山の麓は大雪ダムにて、夜明け前から釣りは開始されたのです。でも、台風の接近による雨で、午前中しか竿を出せず、結果は、今年も惨敗であった。
 でも、僕自身もいい刺激を受けました。やっぱり、やればできるじゃないか。まだまだオレたちの仕事も捨てたもんじゃないぜ、と。そして、なによりうれしかったのは、僕が帰ったあと、河原君の店『めらんじぇカワハラ』は、連日大ブレ-ク、大忙しとのこと。よかったなあ河原、しかし、来年こそ何か釣らしてくれよ。

 というわけで、ミチノも近々メニュ-を一新します。しばらく、おとなしい料理が続いて、自分でもいかんな、と思っていたので、今回はぶっ飛びます。乞う、ご期待。
[PR]
by chefmessage | 2001-09-01 22:27