ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


by chefmessage
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

<   2003年 01月 ( 1 )   > この月の画像一覧

杉本則行氏への手紙

 新しい年になりました。去年は、沢山新しい試みをして苦労した一年でしたが、今年はそれらが実をむすぶ年になるようがんばりたいと思っています。宜しくおねがいいたします。
 去年したことで一番にハ-ドだったのは、おせちでした。あんなにしんどいとは思いませんでした。二度とご免、と思ったのですが、新年早々、ある方が重箱を持ってお店に来られ、それを年末まで置かせておいて下さい、とおっしゃいます。お話を伺うと、実は家族で北海道に移住することにしました、とのこと。で、引っ越しなどで荷物が煩雑になるので、どこかにまぎれこまないように持ってきました。ついては、今年の12月31日に飛行機に乗って、またおせちを取りに来るからお願いします、とおっしゃいます。
 しないわけにはいけませんよね。これって、浅田次郎の小説じゃないですよ。なんだか、良い年になりそう、というか、してやるぜ、という気持ちになりました。次いで、去年一番楽しかったことの発表ですが、これは、12月13/14日のフェア-でした。一時帰国していた杉本敬三・若干23才とコラボレ-トのコ-スをお出ししたのですが、その際、敬三のご両親もみえられていて、お二人いたく我が子の成長に感動され、ついでに僕の広い心!にも感謝され、その後、沢山お便りや、菓子類など送ってくださいました。フェア-は、僕もけっこう楽しんで、得ることも多かったので、そんなにお気遣いなく、と伝えたかったのですが、なかなか手紙を書く時間がなく、先日やっとメ-ルをお出しすることができたました。で、そのメ-ルを皆さんにも読んでいただきたくなったのです。というのも、いまの僕の気持がすごく現れているようなので。これを、今年最初のシェフメッセ-ジにしたいと思います。

 『なかなか落ち着いて、手紙をしたためるという時間が取れず、失礼とは思いましたが、メ-ルでお返事送らせていただきます。昨年末よりご丁寧なお手紙、お年賀、それに数々のお品お送りいただき、本当にありがとうございます。また、そちらの皆様にも数々のご厚情たまわり、むしろこちらの方からお礼を申さねばならないくらいです。これも御縁というものなのでしょうが、日頃人づきあいが決して良いとはいえない人間なので、失礼のないよう心がけて、末永いおつきあいさせていただきたいと考えておりますので、今後とも宜しくお願いいたします。

 今回のフェア-は、敬三君にとってもそうであったでしょうが、私にもたいへん意義のあるものでした。自分のお店を持って13年、ただ自分に与えられているであろう天分のみ信じて、私は料理を作ってきました。だれに命令されたわけでもないのに、ひたすら頂上目指す登山家のようであったと思います。それが正しいのか、そうでないのかわかりませんでしたが、自分の存在が無駄ではないことを自身に納得させたかったのだと思います。そして、その答えは、正直言って、未だ出てはいません。
 すでに自分という山の頂上にいるのかもしれないし、枝分かれした尾根の上かもしれません。あるいは、未だ中腹でしかすぎないのかも知れず。ただ、長年の仕事でそれなりの充足はあり、ともすれば、慢心しそうになることもあるわけで、それが自分の距離感というか時代性を狂わせているかもしれない、という危機感も常にあるわけです。ですから、今という時代の真っ直中で奮闘している若者と同じ場を共有するという経験は、私にとっても、貴重なものでした。私の方こそ感謝すべきなのかもしれません。ただ、同じ道を歩む先輩として言わせていただくならば、彼にはまだまだ学ぶべき事が多くあるとは思います。というのも、料理にしろ何にしろ、最終的には人間性が問題になってくると思うからです。ミシェル・ブラというシェフの言葉を忘れることができません。彼は、私にこう言いました。「自分は天才じゃない。ただ、まじめに仕事をしているだけだ。」
 フランス料理が素晴らしいのは、個性を尊重する文化として成り立っているからです。そして、個性とは個々の人間性の表象です。そのためには、まず、自分というものを的確にとらえ、形作らねばなりません。今、彼は料理を学ぶことに夢中です。ですが、杉本敬三という人間像は、いまだ不明瞭です。ただ、望む望まないにかかわらず、料理以外に多くを学ばねばならない時がくるとは思います。その時、自分の心に忠実に、ひるまずたちむかえれば、彼は料理人として大成するでしょう。私個人も応援するつもりです。いつも、彼は私のライバルであって欲しい、と思っていますから。
 
 などと、偉そうなことばかり書いてしまいました。私本人も、やっと、「子を持って、初めて解る親心」程度なのですが。

 海外生活が長く、親御さんとしては心配の種は尽きないこととお察しいたします。
でも、彼ほど料理人として恵まれた環境にいる若者は稀で、その分、大丈夫なのではないでしょうか。それは彼に備わった人徳からくるものでもあり、それは、ご両親の人徳でもあると思います。自分も、親としてそうありたいと願うばかりです。私も又、同じく学究の徒であるということでしょう。
 
 長い文章になりました。随分、生意気な事を書いたかもしれません。失礼がありましたら、お許しください。また、こちらにこられることございましたら、お立ち寄り下さい。皆様に宜しくお伝えください。

1月13日    道野正 拝

みんな、今年もがんばろうね!
[PR]
by chefmessage | 2003-01-13 02:23