ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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ミチノは天才か?

 ザガッドサ-ベイという飲食店のガイド本にうちのお店も紹介されていて、残念ながら僕は買ってないのでまだ読んでいないのですが、そこに、「この店のシェフは天才らしい」なんてことが書いてあるらしいのですが、今回はその事について。

 僕自身もテレビに出ていたとき、よく天才と自称していましたが、では本当にそう思っているかというと、これはここだけの話しですが、全然思っていません。というより、この業界、天才なるものがやたらいて、むしろそんな風なくくりでまとめられたくない、というのが本音です。では何故自称していたかというと、その方が受ける、というか、解りやすいだろうと思ったからです。それほど常套句化している、ということだと思います。でも、僕も一時は、結構悩みました。と言うのも、僕は本当の天才を知っているからです。

 結論からいきましょう。その人物は、シェ・ワダの和田信平氏です。今から16年前、僕がフランスから帰国して、3年間勤めたレストランのオ-ナ-・シェフ。で、何故彼を天才だと思ったかというと、初めていっしょに厨房で仕事をしたとき、彼がどんな料理を作ろうとしているのかが全く見えなかったからです。当時の僕は帰国したばかりで、それなりに自信と経験もあって、だから作業の進みかたを見ていると、その人がなにをしようとしているかが想像できて、説明されなくてもフォロウできると思っていたのです。ところが、これが解らない。いままでの方程式、それも苦労して身につけたものが通用しない。一体この男はなにがしたいねん。なのに出来上がった料理は、目を見張る出来映え。参りました。そして考えました。どうしてこんな事ができるのか。

 ある日、答えを見つけました。彼は、自分の食べたいものを作っていたのです。普通、料理人は、他人の評価を非常に気にします。だから、破綻のないものを作ろうとします。これは某有名シェフの料理のアレンジ、あの本に載っていた料理、あそこで食べたことがある、あそこで習った、等々。何時も横目で他人のことを気にしてる。でも彼はまるで気にしていなかった。そして、自分の本能の命じる声に忠実に仕事をした。これって簡単なようですが、すごく勇気のいることだし、技術もなければ不可能です。ただ、それを目の当たりにした僕は、深く感動しました。そして、うれしかった。そうか、なにやってもええんや。フランスの冬の空のように僕の頭上にのしかかっていた暗雲は消え、真っ青になった気分でした。それからは仕事が楽しくて、楽しいからできるできる。オレって実はこんなにやれたんだ、と。そして、チャンスが巡ってきて、自分の店が持てることになって。

 でも、ここで疑問が生じたのです。真の天才を知っているということは、オレってずっと2番か?山のような借金背負って店やって、でも1番にはなれんのか?そこで考えました。天才とはなんぞや。天才とは、すなわち天がその人にのみ与えた才能である。とするなら、だれでもなれるんじゃないのか。ただし、己の才能に気づくことと、それを伸ばし鍛える努力を怠らないこと。よっしゃやったろ、と言うわけで、この13年間があるわけです。だから、今僕がやってる仕事が、僕にしかできないものであるとするなら、僕は紛れもない天才で、でも、これだけは確かです。僕にできた事は、誰にでもできる、と。そういう意味では、僕は偉大な凡才であると。
 今僕は、自分が2番だとは思っていません。でも、1番でもない。これは気が楽です。でも、重荷でもあります。まだまだ努力がたりないと思うから。もっと先へ。天才への道は遠いのだ。でも、皆さんの応援があれば大丈夫だと思います。宜しくね。ただ、空は相変わらず青いです。
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by chefmessage | 2003-02-13 02:25