ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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料理人のDNA

 唐突ですが、たらの白子でお好み焼きみたいなの作れないかなあ、と思ったのです。そこで、たらの白子を買ってきて、試作を始めました。まず、アパレイユ、すなわち、つなぎは何がよいかを考えます。小麦粉と水だったらなんのひねりもないので、ここは、普段使っているアパレイユ・ア・ブレッサンヌ、ブレス地方のネタ、くらいの意味だと思うのですが、じゃがいものパンケ-キのネタを使うことにしました。フランスの地方料理に、じゃがいもとたらのグラタン、みたいなのがあったはずだから、組み合わせとしては問題ないでしょう。で、次の段階。パンケ-キを焼いてその上に白子をのせ、上からもういちどネタをかけてひっくりかえし焼き上げるのか、それとも、パンケ-キを2枚焼き、別のフライパンで火を通した白子をはさむのか。最初の方は、出来上がりの形が悪い。どうしても隙間ができるし、上にパンケ-キがのっかっているみたいで、安定もよくありません。次の案は論外。全然、お好み焼きらしくありません。そこで、ええい面倒とばかりに、小さなボ-ルに一人前の白子を入れ、スプ-ン一杯分のパンケ-キのネタを入れて混ぜ、テフロンのフライパンを使って、弱火で両面焼きました。これが大正解。形は分厚いお好み焼きみたいだし、白子の隙間をネタが埋めて熱を伝えるので、こんがり焼けた段階で全てに火が入っています。気を良くして次に進みます。ソ-スはどうするか。ウスタ-ソ-スに似たフレンチのソ-ス。そこで想像を巡らせます。さきほどのじゃがいもとたらのグラタンの場合、合わせるワインは白か赤か。魚料理だから白?でもグラタンになる魚なら赤でもいいんじゃないか。だったら赤ワインのソ-スでも問題ないんじゃないか。それに、たらといえば南仏のイメ-ジだからトマトもO.K.かな。そこで、赤ワインのソ-スをトマトペ-ストでつなごうと考えました。作ってみると、まるでウスタ-ソ-スなんですね。よしよし。でも、これだと、オ-ドブルとしては重すぎるんです。もっと軽くしないと。なにか酸味のあるもの。で、マヨネ-ズの登場です。ますます、お好み焼きに近づきます。それでまず皿に線を書いてその上に焼き上げた白子をのせ、ソ-スをかける。でも、まだだめです。食感が単純すぎて退屈です。見た目もよろしくない。なにかパリッとしたもので噛むリズムに変化をつけたい。そういえばネギ焼きというのあったなあ、で、ポロネギを細切りにしてさっとフライにし、ソ-スをかけた白子の上にフワッ。この色がかつを節なら後はノリか?緑やな、イタリアンパセリをあしらって、ハイ、出来上がり。めでたく、レストラン・ミチノの新メニュ-となりました。チョットこじつけめいたところもあるのですが、僕の場合、こうして新作が生まれていきます。それを延々14年間続けているという訳です。よく、どこから発想するのですか、と聞かれますが、僕にもよくわからない。でも、読んでいただいた方にはご理解いただけると思うのですが、僕はけっして奇を衒っているのではありません。誰よりもおいしい料理を作りたい、その思いは世の料理人と変わらない。でも、僕はそれ以上に、僕にしかできないものを生み出して、そのことで人を感動させたいと願っています。だれも登ったことのない山に登ってみたい。何故そう思うのか、これもよくわかりませんが、多分そうする事で、あなたもやればできるかもしれませんよ、というメッセ-ジを常に発信したいのかも知れません。たかが食い物でなにを偉そうな事を、と思われるかもしれません。そのことは、じつは本人が一番よく理解しております。されど食い物、ということも同時に。
 ここで話はコロッと変わりますが、鮭児というバカ高い鮭を今年も仕入れました。一万匹に一匹とかいう代物ですが、これは僕が思うに、DNAの刷り込みが風変わりな個体なのではないでしょうか。通常、鮭は4,5年で繁殖のため、生まれた川にもどるらしいのですが、鮭児は、まだその年じゃないのに何故か帰巣本能にめざめてしまう。でも、まだ繁殖のための器官ができていない。でも栄養だけは摂るので、からだはまるまる太っている。だから、おいしい、と。はじめて見たとき、僕はその美しさに息をのみました。婚姻色がでていないので、その紡錘形の魚体は白銀に輝いていました。これなら、群のなかに混じっていても判別できるだろうな。だから、一万匹に一匹という数字がでるのだと理解できたのです。でも、鮭児にすれば迷惑な話かもしれません。目立つから、すぐに捕まってしまいます。今年は、その鮭児が豊漁なんだそうです。ということは、どこかに一杯いるのかもしれません。それを想像すると、結構楽しい気がします。
 僕も、料理人としてのDNAが風変わりなのかもしれません。といって、僕が一万人に一人なんて、まちがっても思っていないから勘違いしないでくださいね。でも、こんなに料理の世界に才能が集まり、レベルも上がってきている時代なら、これから鮭児の豊漁の時代がやってくるのかもしれません。たかが食い物、されど食い物、さあ、今年も最後まで頑張りますか。みなさん、白子のお好み焼き、食べに来てくださいね。
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by chefmessage | 2003-11-13 02:35