ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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 今回は、めずらしく家族について語りたいと思います。
 まず、マダムとの出会い、ということになるのですが、これはもう随分昔、場所はアメリカ村にあったころのシェ・ワダの厨房です。僕が、北海道は旭川での1年間のシェフ生活に終わりを告げて、再びシェ・ワダの厨房に戻ることになって第一日目、シェフ・ド・パティシェの佐野君(現レストラン・サノ オ-ナ-シェフ)と打ち合わせをしようとパティシェの方へ行ったら、なんやら派手な女子がいる。あたまにバンダナ巻いて、イヤリングとかピアスとかいっぱいつけて鼻歌歌って仕事してる。「サノ、こいつ何や?」。そのころの僕は結構硬派だったので、佐野君、思わず苦笑いして、「ちょっと変わったやつですけど、頑張ると思います。おい、挨拶せんか。道野さんや。」。彼女、そのときハタチ。僕の第一印象は、とりあえず恐そうなオッサン、だったそうです。
 結局、1年たたないうちに、彼女は郷里に戻ることになりました。聞けば、予備校に行って、大学受験するとのこと。自分の無知を覚って、もう一度勉強したくなったそうです。こうして、二人の関係はブッツリ途切れたかに思えたのですが。
 その後、僕もシェ・ワダを辞して現在のお店を開業し、オ-ナ-シェフとしての悪戦苦闘の日々に突入するのですが、ある日、懐かしい彼女から電話がありました。無事、大学生となり、現在は千里山で独り暮らししているとのこと。地図を見ると、ミチノサンのお店近そうなので、一度バイクで遊びにいってもいいですか。ああ、いいよ。ということで、なんとなくつき合いが始まって。彼女の卒業後もそれが続き、ある日、彼女がいいました。「子供ができたよ。」。正直言います。家族なんていらない、と思っていました。一代限りの料理人人生、やるだけやったらそれでお終い、と考えていました。余裕なんてなかった。よじ登るのに必死だったし。それを伝えたところ、笑いながら、「大丈夫、私が育ててあげるから。あなたの才能を伝えてあげるから。」。降参!結婚させていただく事にしました。

 出産は立ち会いで。それが彼女の望みでした。僕は料理人なので、死んでいるもので新鮮なら、どんな動物も恐くはありません。でも、生き物はちょっと。それに、僕が立ち会っても、痛みが和らぐ訳でもないだろうし、と抗弁すると、1人で苦しむのは理不尽で、あなたは私が苦しむ姿を見て、苦しむべきだ、と仰る。そんなもんかなあ、と考えている内に、その日がやってきました。そして、僕も白衣に着替えて分娩室へ。一進一退の攻防が続きます。そして、子供の顔が見えたとき、僕は、雷に打たれたように、打たれた事ないですけど、神様ってほんとにいるんだ、と思ったのです。なぜか、ほっとしました。これでいいんだ。オレはなにをつっぱってきたんだろ。それは、いままで微妙にずれていたジグソ-パズルが、スコンとはまって完成したような、そんな感覚でした。
 男の子です。名を、悠(ハルカ)といいます。これは、彼がまだお腹の中にいて性別がわからないときから、呼びかけてあげたいという奥さんの希望で、どちらにしても有効、ということで考えました。ただ、女なら、字は遙になったかもしれないけれど。そして、ハルカは来月8才になります。妹も二人できました。曜(ヒカリ)と臨(ノゾミ)です。お断りしておきますが、僕は鉄道マニアではありません。3人目の名前は、考えるまでもありませんでしたが。ただ、道のはるかなひかりをのぞみ、彼らは前進あるのみです。列車と同じ、後退はありません。そうして、僕も力の限り彼らと前進し続けたい、と。

 今、僕を動かしているのは家族です。才能が、続ける、ということと同義であるなら、僕の才能は今、彼らによって与えられています。家族のために頑張ろう、なんてことではありません。才能は時と共に擦り切れていきます。それは厳然たる事実です。でも僕は、家族というものに触発され、それを手がかりに、擦り切れかかった才能にあたらしい躍動を与えようとしています。老骨、にはちょっと早いけれど。
 ここ何年か、僕が頑迷さから脱却しようとしているのはその現れです。変われるものなら変わってやろう、と考えています。そして、それが成功しているとするなら、それはマダムと子供達のおかげだと思います。それに、若いスタッフ達と。
 でも、なんせ年なので、時々疲れることもあります。そんな時、マダムが僕に最初に作ってくれた夜食を思い出して初心にかえります。それは、ノリタマまぶしたオニギリ2コでした。
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by chefmessage | 2004-05-17 02:42