ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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パンドラの箱

 先日、奈良の都祁(つげ)村というところに行ってきました。名阪国道の針インターを降りたところに大きな道の駅があって、それに付随するかたちで西日本で最大級というイチゴ農園があります。そこで特産品として個性のあるジャムをつくりたい、ついてはご指導を、という要請があって、それじゃやってみますか、ということで出かけた訳です。
 その外観は近未来の建物といった趣きで、金属のフレームが張り巡らせてあり、全面ガラス張りです。あまり農園といった感じじゃない。でも中に入ると腰の高さにイチゴの苗がずらっと端まで並んでいて、それが見渡す限り何列もあって壮観です。見ればすでにイチゴは実っていて花も咲いている。温度とか水量とか肥料とか、僕は農業のことは良くわからないけれど、完璧にコントロールされていて、一年中イチゴが採れるとか。でも、僕が一番驚いたことは、小さな蜂がいっぱいいたことです。それが、花から花へ飛んで蜜を取っているんだろうけれど、同時に受粉してくれている、とか。それで、花が実をむすぶらしい。そして、この蜂は人を攻撃しないらしい。「どこからそんな蜂取ってくるんですか。」と聞いたところ、そういう蜂専門の業者さんがいる、との答え。すごいなあ、ここではコンピュータと昔ながらの技術が共存しているんです。
 その後、別室でジャム作り。丹精こめて作った自分たちのイチゴがどんなジャムになるのかと、皆さん興味津々、ちょっと威圧感も感じながら作業と講習。基本のジャムから初めて、その変化バージョン4種類、ミチノオリジナル。残念ながら、その詳細はまだ明かせません。製品化するまえにコピーされると困るので。でも、皆さんびっくり。ミチノが作る未知の味。新年から、なんか飛ばしてますねえ。これってオリジナルですか?そうです。どこから思いつくんですか。わかりません。と、いつもの応酬があって、瓶詰めまで指導して終了。そのとき、ベレー帽被った恰幅のいい、でもちょっと気難しそうなおじさんが入ってきました。皆さん、さっと緊張の様子から、社長と判断。名刺には、有限会社 都祁アグリファーム 代表取締役の肩書きがあり、お名前は福井 栄遠さん。なかなか鋭い眼光にちょっとたじろぎましたが、偏屈同士の血が騒ぎ、すぐ打ち解けて話がはずみます。
 こだわりのおじさん、という刷り込みがあったので、その点お聞きすると、まずこの方、お茶作り農家の14代目で、いまは息子さんが15代目を継いでいるとか。まずうちのお茶は有機栽培です、ということ。なんだ、きょう日珍しくも無い、と思ったら、25年かかりました、と仰る。まず化学肥料をストップして3年、お茶の木が枯れる寸前までいきました。周囲の同業者に、もう農家やめるのか、と聞かれた、何故なら葉が全部黄色くなってホッタラカシにしているように見えたからです。そこから有機の肥料に切り替えました。だからうちの木はマイナス10度でも凍りません。過保護にせず自然の力を身につけさせました。それでうちのお茶は風味が豊かで濃厚になるんです。なるほど。でも、次の言葉に僕は感動しました。「これで、孫にも安心して飲ませることができます。」
 うちの従業員に僕がいつも言ってること。すべての料理を、自分の一番大事なひとに食べてもらうつもりで作りなさい。それと同じなんだ。福井さんの笑顔がとても素敵に見えました。お米も、だから有機栽培で作っておられるらしい。そして、こと農業に関しては意識改革が進みつつある、と言っておられました。
 この時代、子を持つ親としては未来に不安が山積みで、自分たちや、その前の世代の享楽の付けを、直接関係のない次世代に回しているような気がして、時に暗澹たる気持ちになるのですが、箱の底にはちゃんと希望が残っているんだ、と思います。いや、そう思いたい。だから、僕たちは、何を伝えるべきかを真剣に考える時に来ている、と福井さんとお話していて痛感したのでした。
 ジャムの完成まで、あと何度かは都祁村に通うと思います。そして完成したあかつきには、お言葉に甘えて、福井さんの築250年というお宅に家族で伺って、ご自慢の産物と、もてなしでつぶした鶏を振舞っていただこうと思っています。

お問い合わせ:都祁アグリファーム 奈良県山辺郡都祁村大字針385
TEL 0743-82-1717
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by chefmessage | 2004-11-09 02:48