ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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kyawaの結婚

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 上の写真は、もう20年近く前のものです。場所は、白ワインで有名なマコンの隣、サン・フィリップベールという古い教会があるTornusという小さな町の一つ星レストラン‘Le Rempart‘の厨房です。僕はここで1年近くすごしました。今でも、ここに写っている全員の名前を覚えています。というのも、実はこの店でこの仲間達に支えられて、僕はここに来る前に、粉々に砕かれてしまったフランス料理のコックとしての自信を取り戻すことが出来たから。だから、日本ではほとんど無名だけど、僕にとってはここは忘れることのできない店であり、この人たちは忘れてはいけない人たちなのです。そしてもう一人、あの時代を共に過ごした、忘れてはいけない人物がいます。それは、京都の‘パリの食堂‘と‘BCP‘のオーナー、早川佳毅君です。

 僕と早川君は、同じ飛行機でフランスへ向かいました。フランスへ行くという彼に、文字通り僕が便乗したのです。でも、お互いに片道切符、潤沢な旅費があるわけでもないのに、帰る日も決めていない無謀な旅立ちでした。幸い、別々だけど一軒目の受け入れ先だけは決まっていたのですが、ふたりとも不安でいっぱい。やがてパリについてそれぞれの目的地に向かうとき、お互いに連絡だけは忘れずにしよう、と言って別れたのですが、とても心細かったのを覚えています。そして僕は一軒目の店に辿り着いたのですが、それからの日々は本当に辛かった。そこは当時まだミシュランの二つ星だったのですが、三つ星に王手を掛けていると噂されていて、だからすごく勢いがありました。毎日が猛スピードで通り過ぎていくのですが、その仕事場で、僕はまるで使い物にならず、右往左往するだけでした。言葉が解らないのです。オーダーがまず聞きとれない。でも見にいってるひまなんてなくて、おたおたしてると、罵声がとぶ。お前、なにやってるんだ、もういい、というわけで取り残されて一日が終わる。その連続でした。そして3ヶ月でついにクビ。

 そのとき僕はすでに32歳でした。それなりに経験も積んで自信もあって、仕上げのつもりでここまで来たけれど、成す術もなく、行く場所もない。日本に帰りたかったな。でも、このまま帰ったら怖気付いてしまって、二度とフランス料理をしようとは思わないだろう、ということは解っていました。天を仰いで流れる涙を止めることもできませんでした。それなら、今までの辛抱は何だったのだろう、そうして、そんな僕を支えてくれた人たちにどうして報いればいいのだろう。とにかく、もう少し踏ん張ろう、そう思いました。そして、その当時アヴィニヨンで働いていた早川君に連絡したのです。
 彼は、お店から個室をあてがわれていたので、とりあえず来てください、と言ってくれました。そこで、仕事がみつかるまでいてくれていい、でもばれると僕も困るので、朝一緒に部屋を出て、夜、僕が帰ってきてから部屋に入ってもらわないといけないけど、それでもいいですか、と申し訳なさそうに言います。僕には、それだけでも充分ありがたかった。そして、僕は彼のところで、仕事が見つかるまで2週間、居候させてもらいました。そして、やっとの思いで見つけたのが、先の‘Le Rempart‘での仕事だったのです。仕事がみつかった、と彼に言ったとき、彼は本当に喜んでくれました。お互い頑張りましょう、彼の部屋を出て行くときのその励ましの言葉と、かわした握手の強さを僕は今でも忘れてはいません。そして‘Le Rempart‘で僕はフランスでの第二のスタートを切ったのです。言葉もよくわからない僕に、丁寧に仕事を教えてくれた仲間たち。最初は半信半疑だったけど、最後まで僕をソーシエという責任あるポジションに据えてくれたシェフ。自分の頑張りだけではなかったと思います。それから、僕は次に二つ星の店に移ってオードブルのシェフになりました。自信は蘇りました。

 生涯の友、そんな人物がいるとしたら、だから僕にとっては早川君がその人だと思います。彼があのとき僕を受け入れてくれなかったら、その後の僕はなかったでしょう。そして彼自身も帰国後、大成功を修めました。アヴィニヨンで、Hが発音できないフランス人たちに、苗字の下半分を取って、kawa-kyawa(キャワ)と呼ばれていた気の弱そうな青年は、日本でビストロの神様と呼ばれるほどになりました。そして、遅ればせながら、5月に結婚式を挙げるという事で、先日招待状が郵送されてきました。もちろん、出席。お店はお休みにします。
 僕の口の軽さは有名なので、懸命な彼は僕にはスピーチさせてくれないでしょう。でも、今度は僕が言う番です。結婚生活は大変だから、自信なくさないよう、頑張れよ。
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by chefmessage | 2005-04-04 02:53