ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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スイカとパセリ

 いつかスイカを使ったデザートを作ろうと思いながら、なかなか出来ずにいました。というのも、スイカはよく冷やしてそのまま食べるのが一番おいしくて、ピューレにしても、それをシャーベットにしても水っぽくてまとまりがない。どちらかというとぼやけた味なので、加工しようがないのです。加熱するとただのすこし甘い水、にしかならないし。
 要は夏の暑いさかりにのどの渇きを癒し、涼をとるには最適な果物だけど、気取ったレストランのデザート向きではないのです。そういうものだから、あえて手を加える必要もないかと、気になりながら、放っておいたのです。

 でも、今年はやってみるか、という気になりました。そのきっかけは、今年の春のこと。今、一番予約がとれないお店で有名な祇園の割烹「ささ木」さんで念願叶って食事した後、ご主人とお話して、自分のあり方、というか仕事の仕方が明確になったような気がしたからです。

 さすがに当代随一の仕事人、このご主人、和食だけでなく洋食もよく勉強しておられて、東京の旬香亭というお店に「エル・ブリ」のお弟子さんがいて、この方は日本人だけど、「エル・ブリ」の料理を再現しておられる、と聞き込んで出かけられたそうです。そこで食事して一番印象に残ったのが、そら豆のスープ。これは一世を風靡して、沢山の料理人がコピーしたり、その出来損ないを生み出した一品なのですが、シャンパン・フルートのようなガラス器にまず冷たいクリームスープを入れ、そのうえに温かいそら豆のポタージュを注いだものです。一気に飲む、というか食するのがポイントで、そうすると口のなかで冷と暖が混じりあって、いままで味わったことのない感覚が生じる、という、まあ想像していただくしかないのですが、そういうお料理です。で、佐々木さんは大層ショックを受けられたそうです。「でもね、」仕事人は仰いました。「料理はしみじみおいしいと味わうことが大事でしょ。そうでないと料理とは言えないのではないでしょうか。」。僕もそう思います。「でもね、」僕も言いました。我々の仕事は、例え一瞬でもいいから新しいものがなければならない。もちろんおいしい、という大前提はあるけれど、それにまだプラスされたなにか、それを生み出す力と技術が大切な世界なんです。それは、島国の単一民族で形成されてきた文化的風土と、地続きに異民族がいて、攻めたり攻められたりしながら変化せざるを得なかった文化的風土の違い、と言えば大げさかもしれないけれど、周囲に溶け込む、と、周囲から突出する、そんな違いがあるように思います。人為的なものを排して自然をしみじみ味わう文化と、人為を尽くして自然に新しい価値を見いだし、それを味わう文化と。だから、それが違和感を感じさせる料理であっても僕は認めるし、それをうみだした人を尊敬します。

 なんか難しいこと言うとんな、という顔しておられました。でも僕は、自分の仕事に磐石の自信を持っておられるこのご主人の様子にも感動しました。そして、互いの価値を尊重し、歩み寄るところと異なるところを明確にして自分の仕事に打ち込もう、と思ったのです。

 で、スイカのデザート。僕は今まで怖がっていたんだ、と思います。和食的に考えれば、おいしいスイカそのものを探して、一番おいしい温度とタイミングでお客さんの前にだせばよいわけで、それ以上の方法はない、と。でも、とにかくはずすことを恐れずやってみました。スイカは種を取って、3センチ角に切って冷凍します。スイカのしゃりしゃりした食感を強調したかったからです。オーダーが通ってから室温で解凍して、半分解けた状態が理想です。それを包み込むババロア状のもの。これは甘さとねっとり感をプラスします。水くささとぼやけた味を補完するものです。次に香り。スイカの独特な青臭さを引き立てるためパセリ。でもババロアに混ぜるだけ、というのも芸がない。そこで牛乳で煮出して、それで緩めのブランマンジェを作って添えることにしました。これで一応完成したのですが、なんか物足りない。そうか、種や!ということで黒いタピオカをさがしたのですがみつからなくて、何か黒いゼリーを、と考え、バルサミコヴィネガーとラム酒のゼリー。ブランマンジェの重さを酸味で押さえ、酢のつんとする匂いをラムで中和させました。もう一度試食。まだ物足りない。そこで薄いスポンジを下に敷くことにしました。もうこれ以上できないぜ、で完成。
 なんでそこまでやらはんの、という佐々木さんのお顔が目に浮かびます。でも、これがミチノの仕事です。さて、あとは皆さんの評価を仰ぐのみ。どきどきしますが、実は楽しみです。いちど食べに来てください。佐々木さんも来ないかなぁ。
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by chefmessage | 2005-06-22 02:57