ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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カトウさんとカワハギ

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 今、僕の一番のお楽しみは、カトウさんとの釣りです。カトウさんは、ご夫婦でうちの店のお客さんですが、大の釣り好き。日本海のある湾にマイボートを置いて、ほとんど毎週釣りに行っておられるとか。そのお話を聞いたとき、なんとか一度ご一緒させてください、と頼み込みました。でも、僕は水曜日しか休めないので、無理だろうと思っていたら、月に一度くらいなら行きましょう、とスケジュールを調整してくださって、同行させてくださるようになりました。
 豊中から車で3時間、そこは山にかこまれた小さな湾で、まず景色が素晴らしい。一日のほとんどを地下の調理場で過ごす身にしてみれば、そこに来るだけでこころは和みます。そして、ボートを下ろして出航。竿に仕掛けをセットして餌を用意して。前の晩は嬉しくて眠れず、だから眠いはずなのに気分は高揚して。

 カトウさんのお得意の釣りは、カワハギ釣りです。ウマズラハギ。でも、これはたいへん難しい釣りです。というのも、カワハギは魚類で随一の餌とり名人だからです。普通の魚は、水中で餌を食べると反転して逃げます。その時、糸は引っ張られて、それがアタリとなって竿先に伝わって、あるいは浮きを沈めて、こちらはそれにあわせて竿を引き、餌に付いた針を魚の口にひっかけて釣りあげる、これが釣りなのですが、なんとカワハギは水中で静止するように捕食するのです。背、胸、下、尾、それぞれのヒレを別々に動かしてバランスを取る、ちょうどヘリコプターがホバリングするような感じで、小さな口ですばやく餌をつついて取ります。そして、危険を感じたら、バックして逃げるのです!それを水深50メーター、すなわち50メーター以上伸びた糸の先でやるもんだから、アタリがわからない。それがわからないからあわせられない。初めてこの釣りをやったときは悩みました。いくらやっても餌だけがなくなるのです。なのに隣の名人は「来た、来た。」とか言って笑いながらホイホイ釣りあげます。悔しい。なんとか釣ってやる!でも釣れない。ついに教えを乞いました。
 すると名人曰く、まずカワハギのいるタナを特定すること。これは、面倒だけど何度か餌を上げ下ろしするうちにわかります。ついていた餌がなくなる水深を探せばいいのです。つぎに、その水深になったら糸を止めて、カワハギになったつもりで餌に食いつく瞬間をイメージし、そこで竿をいっきにあおる。そんなことどうやってできるんですか、オレ魚じゃないのに。聞いて、余計に混乱しました。そこで、餌をつけて仕掛けを下ろし、カワハギのいるタナで止めるやいなやグイっとしゃくってみたのです。すると、釣れたんですね。つまり、餌が落ちていくあいだは追いかけて、止まるとすかさず食いにくる、というわけです。それをひっかける。よっしゃぁ。これで僕もカワハギ名人と思いきや、すぐまた釣れなくなるのです。なのに、隣の名人かわらず釣りあげている。何故?すると名人教えてくれました。カワハギ君は学習する。危険を察知するとしばらく様子を見てから餌を食うようになる。だからこちらもタイミングを変えないといけない。カワハギ君は実に賢い魚だ、と。しかも、一ヶ所にいないでタナをコロコロ変える。高を括っていては釣れません。だから、この釣りはあきることがないのです。そして名人の講釈は続きます。そのうえ、カワハギは食べてもおいしい。うろこもないので下処理が楽。だからミチノさん、カワハギ専門店にお店を変えなさい。
 カトウさんはカワハギが愛おしくて仕方がない、といった風情です。でも、そんな店、あなた来ます?ただ、料理人の僕としては、このカトウさんの偏愛を少しは応援したい。そこで考えついたのが「カワハギとモンサンミッシェル産ムール貝のマリニエール、グレープフルーツ風味」です。これは、料理の名人でもあるカトウさんも納得の逸品となりました。こうして、歴史は作られる!

 先日のカトウさんとの釣行で、僕はついにアコウを釣り上げました。キロ1万円の高級魚。これは、ライム、冷やした揚げナス、キャビアをあわせてカルパッチョにしました。産地直送、しかも一本釣りの上物ですぜ。あなたも運がよければ食べられます。
 僕の、カワハギ料理を召し上がったカトウさんはいたく喜ばれて、これから、ご自分の釣った魚をまめに持ってきてくださる、ということなので、それほど幸運じゃなくてもおいしい魚を召し上がっていただく機会は増えることと思います。ご期待ください。
 それにしても、いい趣味と人にめぐりあえたと思います。将来は、カワハギ専門は無理でも、魚だけのコースはありうるなあ、と思うこの頃のミチノシェフです。いくつになっても挑戦し続けることができれば、このつたない人生も悪くはないと思います。
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by chefmessage | 2005-10-18 03:01