ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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クォ ヴァディス

 平成2年の5月26日、僕のお店が開店しました。それは本当に夢のようなレストランでした。天井が高くて、内装もシンプルだけれど重厚、調度品も最高のものばかりで、眩しいくらい輝いていました。完成前、誰に構想を語っても、そんなこと個人でできっこない、と言われたけれどなんとか作り上げた僕の城です。確かに場所は辺鄙で、地下だしハンディはあるけれど、それでもここからフランス料理界に旋風を巻き起こしてやる、と僕は誓いました。そして、日本中からお客さんがやって来てくれることを願ったのでした。

 それから16年がたちました。その間に、いくつかの大きな別れや出会いがあり、苦しみ・悲しみや喜びがありました。でも、あっと言う間だったような気がします。僕はいつも懸命だったから。
 確かに、一時代を築いた感はあります。

 先日、ラ・クロッシュの川田シェフが始めて食事に来られたのですが、僕の料理を召し上がって、「もっと度肝を抜かれるようなものかと思っていただけに安心しました。」と言っておられました。そして、「とってもおいしかったです。」と。
 でも、その時お出ししたゼリー寄せにスイカのモスタルダがついていたり、メロンのガスパチョにワサビが入っていたり、あるいはハモのガロニチュールのタマネギが塩釜焼きだったり、といったことを説明すると、絶句しておられました。

 最初、僕は人より高く飛ぶことを目指しました。誰もやらないことに挑戦し続けました。そのことでは当時、絶賛よりむしろ非難のほうが多かったように思います。でも、それが僕の存在意義だと考えていたからひるみませんでした。和田信平シェフに、奇を衒うな、と言われたときはびっくりしましたが。
 
 やがて僕は着地に目覚めました。人がおいしいと感じるスポットが解り始めたのです。その結果、高く飛んでもちゃんと着地できるように、無茶をやってもバランスがとれるようになりました。それに応じて盛り付けもシンプルに変化しました。だから僕の料理は、一見普通になり、食べ手を問わず受け入れられるようになったのだと思います。それはまた、世の中が変化したことだとも思います。沢山の料理人がさまざまな試みをやれるようになった結果であり、それがまっとうに評価される下地を僕は作ってきた、と多少は自負しているのです。

 また、豚肉をフレンチで使う先鞭を付けたのではないか、とも思います。当時、豚肉は高級食材と考えられていなかったので、みんな使わなかった。それを疑問に思っていたときに薩摩黒豚に巡り会いました。そのフィレをベーコンで巻いてローストし、バルサミコのソース、サツマイモのキャラメリゼを組み合わせてメニューに載せました。ベーコンは脂分を補うため、バルサミコは黒酢に似ているから、サツマイモは薩摩だから、そしてサツマイモって豚が好んで食べそうだから。
 ある日、東京から「月刊専門料理」の編集長がやって来てこの料理を召し上がった。食後、是非豚肉の特集をやりたくなったので協力してくれ、と言われ快諾しました。ブームはそこから始まったのではないでしょうか。

 でも、開店から16年たった今、僕の店は正統派フレンチ、名店、老舗と表現され、お客様も概ねそういう捉え方をされているようです。なんだか敷居が高そうです。だから、特別なお店、と言えば聞こえはいいけれど、あれば安心のシンボル的お店。でも、普段使いじゃなくて、思い出したときにたんまに行けばいい。そうして僕と僕のお店はどんどん今、というか時代から遠ざけられていく。あの人は今、的世界。 このままでいいのだろうか?

 僕は大御所なんかじゃなくて、いまでも前衛のつもりです。そして、もっともっと沢山のお客様に対していい仕事がしたい。時代の先端にたって気炎をあげたい!そのためには、自分で築きあげたものを自分の手で壊すしかない、と思い至ったのです。
 閉店宣言をして、沢山の大切なお客様からお叱りや失望の声が寄せられました。でも、僕はもう一度あの日に戻って、いちからやり直そうと思っています。そしてそんなミチノだから、僕はとても大切にされてきたのだと思います。

 来年の1月一杯で僕の黄金時代は終わりを告げます。そして、次の時代を始めようと模索してます。クォ・ヴァディス・ドミネ、主よいずこに行かれるのですか、そう言いながら、確信を得て進んでいくつもりです。どうか、応援してください。そして、終わりと始まりを共有する同時代の仲間でいてください。よろしくお願いいたします。
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by chefmessage | 2005-11-18 03:03