ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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ベントレーに乗って

 7月15~17日のフェアには、沢山のお客様にお出でいただきました。大好評でした。ありがとうございます。レストランはやはり、お客様の笑顔と会話で満たされていて初めて完成するという気がしました。そのなかに懐かしいお顔が見受けられると尚更。料理の記事を色んな媒体に書いておられるKさんもそのお一人でした。

 Kさんとは、ぼくが、まだアメリカ村にあったシェ・ワダにいたころからのお付き合いになります。食事に来られるとたまに厨房に顔を出されて、ミッチャン、元気?と声をかけてくださいました。シェ・ワダを去る日、わざわざプレゼントのポールスミスのシャツを届けていただいたことも昨日のことのように思い出します。
 さて、フェアでの食事後雑談でクルマの話になって、お互い、今何乗ってんの、という事になったのですが、Kさん、どうも歯切れが悪い。いや、まあまあ、などと言って笑っている。ピンときたぼくは駐車場に見に行きました。するとそこには、何とベントレーが。それもVWに買収される前の、いかにも、といった趣の年式のものが。実は、ぼくは古い車が大好きなので、これには参りました。すかさず客席に戻って、Kさん、あれは反則やで、と言いました。冗談まじりで、あれは平民の乗る代物ではない、と。すると、親交のある音楽家が譲ってあげると勧めてくれたもんで、とKさんは苦笑いで答えます。その音楽家が誰か知っていて、浮世離れした感覚の持ち主であることも理解できたから、ぼくは妙に納得してしまいました。でも、でかすぎて不便でしょ、と尋ねると、自宅のガレージに入らないので、会社の駐車場に置きっ放しで、電車通勤やで、とおっしゃるので、二人で大笑いしました。

 今ではこうして馬鹿話で盛り上がる二人ですが、一時、険悪なムードになったことがあります。もう10数年前、ぼくが独立して3年目位のことでした。
 バブル崩壊、という言葉が毎月の売上からはっきりとわかるようになった時、経営の危機を感じたぼくはKさんに一通の手紙を出しました。このままでは店がつぶれるので、テレビに出させてもらえないだろうか、と。とにかくお客様に来ていただきたい、その一心でした。当時からテレビ局にコネクションを持つKさんに、安易に助けを求めてしまったのです。Kさんからの返事は、こうでした。「今の道野君を起用するのは時期尚早だと思います。」ショックでした。しばらく立ち上がれない程。ちょうどそのころ、専門料理という本から取材の依頼が来ました。7人の仏・伊シェフが誌上でカルパッチオの競作をする、というものでした。いままでの路線から、迎合するスタイルに変えるかどうか悩んでいたぼくは、一つの決断をしました。どうせ潰れるのなら、思いっきり好きな事やったる、と。今から考えると、すさまじい料理だったと思います。同じ誌面で競作したシェフの一人、カンパネッロの鈴木さんは、これのどこがカルパッチオなんだろ、と思ったそうです。各人5品ずつ作ったのですが、ルール完全無視、というか圧倒的型破りで、主な読者層の同業者の皆さんから正気を疑われかねない料理ばかりでした。でも、楽しかった。当時、仲良しだったプリムールの高橋シェフから、激励の電話があったのを覚えています。「ミッチャン、一番目立ってたで。あれでええねや。」。
 不思議な事に、それからお客さんが増えるようになりました。そして、1年くらいたって、何とかやっていけるな、という目処がたったころ、Kさんから電話が入りました。「ミッチャン、頼みがあんねんけど。」「何ですか。」「テレビ、出てもらわれへんかな。」「いいですよ。」

 あれから数えて、レギュラーも含め多分3ケタ近くテレビには顔を出してきたと思います。でも、あの番組は忘れません。緊張して最後までボーっとしてたな。関西テレビの[名店味ぬすみ]という番組でした。
 さて、それなら今現在のぼくの店はどうか、というと、正直いってまだまだです。お客様の数より従業員の方が多いぞ、という日もあって、不安になります。思い切って、内装・内容ともに刷新したけど、しない方がよかったかな、と思う事もあります。でも、Kさんに弱音を吐こうとは思っていません。
 なぜなら、ぼくは今の店に自信があるからです。
 かつて、京大のアメリカンフットボールのチームが日本最強であった時の監督が言った言葉があります。「ベストは尽くすものではなく超えるもんだ。」。
 ぼくは、16年間やってきた店のネガを今回、出来る限り払拭しました。前より落ち着ける店内、やわらかいサービス、おいしいだけじゃなく軽くて体にやさしい料理、ナチュラルなワイン、そしてリーズナブルさ。でも、ここには他のお店にはない感動があるはずです。ぼくとマダムと従業員の熱い思いがこめられているから。
 フェアの成功はみんなのお陰でした。ビラを作成してくれたマダム、それを雨の日でもポスティングしてくれたスタッフ、早起きして自らもビラ配りしてくれたウチの奥さん(マダムと同じ人です。)どこにも負けない店、どこよりもお客様に満足していただける店、そういう自負が全員にある限り、ぼくの店はいつか、お客様の笑顔で連日いっぱいになると思っています。だから、これを読んでいるアナタ、今すぐ予約の電話をよろしく。

 そして、本当にそうなれたら、Kさんを食事に誘おうと思っています。シェ・ワダの後輩の竹内君が舞鶴でお店やってるらしいから、そこにでも行きましょう。もちろん、ベントレーでね。交替で運転しながら、50歳過ぎたオッサン二人が、あれがうまい、これもうまい、などと馬鹿話しながらの道中、楽しそうだと思いませんか?

レザール・サンテ!  オーナーシェフ 道野 正
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by chefmessage | 2006-08-18 03:14