ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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Only Oneということ。

 以前、ジャガーが欲しい、ということを書いたせいか、この頃誰かと話していても車の話題になることが増えました。そこで改めて数えたところ、過去20年間で、12台も車を乗り換えていることが判明、自分でもあきれています。そしてその12台のうち11台が外国車です。これは何故かというと、外国車にはそれぞれに個性があると思うからです。もちろん国産車と比べると不便なところ、例えばメンテナンス面では圧倒的に不利だったりするのですが、でも、乗ってて楽しい。癖があるけど、慣れるとそれが親近感に繋がったりします。悪友みたいなものでしょうか。では、その中で一番思い出に残っているのはどれかと考えると、1969年製のメルセデス・ベンツ280SLが真っ先に思いうかびます。
 この車、最初から酷かった。当時、僕はジャガーのXJに乗っていたのですが、知り合いの新潟在住のアンティークウォッチ屋が大阪に来た時、そのXJを気に入って自分の280SLと交換しようと言いました。でも、等価では無理だから、なにかおまけをつけろ、と。280SLというのは、車好き憧れの一台です。タテ目のオープンツーシーター。話を聞くと、色は黒、革シートも黒、ソフトトップはブルー、純正のハードトップも付いてるという。で、ちゃんと動くんかい、と尋ねると、あったりまえじゃん、とのたまう。よっしゃ、ロレックス2個付けたろ、ということで決着。お互いの車は陸送で、ということになりました。
 いずれにしても点検が必要だろうと思ったので、なじみの修理屋に直送してもらったのですが、到着するなりその修理屋さんから電話がありました。なんと新潟からエンジンかけたまま積載車でもってきたと言う。なんで、と尋ねたら、一度エンジン切って、次、かからなかったら積載車から降ろせなくなるから、と言ってる、と。やられた、と思ったのですが、とにかく降ろして、一度みてください、とお願いしました。それからの悪戦苦闘は想像におまかせします。莫大なエネルギー、時間、そして(僕にとっては)多額の費用がかかりました。にもかかわらず、この車、大好きでした。もう一度乗りたい。でも、それから5年後、色んな事情があって、僕はこの280SLを横浜のウエスタン自動車に売ってしまいました。一年かけて完璧にレストアされた後、1,250万円で次のオーナーに引き取られていったらしい。二度と手に入れることなどできないな。
 では、どこが良かったかと言いますと、これに乗ってると、例えば信号で隣に最新型フェラーリが停まっても、それがロールズだとしても全然気にならない。むしろ向こうがヘーっと見てる。完全に階級社会から逸脱した存在だったからです。もはや銭金の問題ではないのよ、というオーラがとっても素敵だった。ま、自己満足と言えなくもないですが。
 仮に自己満足だとしても、こちらの気持ちにウソがない。これは楽しかった。
 実は、立場は違うのですが、それと似た経験を先日しました。場所は心斎橋のフレンチレストラン、ル・ヴァンサンク。大御所、原シェフのお店です。ヴァリエの高井シェフとお邪魔したのですが、二人して、ちょっと感動。すべての料理が原シェフ流なのですが、同時に現代的なのです。参ったな、と二人して呟きました。この人まだ進化し続けてるんや、ということは、まだ勉強続けてはんねや。おい、俺らまだまだやな。
 比べるものがない世界がそこにはありました。勝ったとか負けたとか、越えるとか越えないとか、そんな物差しでは測れない世界。もちろん言うに言えないご苦労はあり続けただろうし、今でもおありだろうけれど、齢65歳でこの輝き。
 食後、三人で談笑していたときの原シェフの言葉です。「そら金は欲しいで、でもな、そのためには厨房から出なあかん。それが出来んかったんや。」「結局、料理作るのが好きやったんやな。」。
 一生、好きなことをやり続けそれで良しとすること、たとえ自己満足と言われようが、そんなウソのない原シェフの潔さが魅力となって、今もヴァンサンクは盛況なのだと思います。「まだまだ若いもんには負けへんで。そやから、お前らも頑張れや。」別れ際にそう言って、原シェフは僕達を送り出してくれました。
 僕達もonly oneでありたいと思います。そのためには不断の努力が必要なんだけど、迷うことも疲れることもあります。そんなときは、原シェフのことを思い出すことにします。280SLほど見た目が麗しいわけではないけれど(すんません!)、同じくらいかそれ以上に、原シェフともお知り合いになれて、僕達はとても幸せです。

レザール・サンテ!  オーナーシェフ 道野 正
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by chefmessage | 2007-08-18 03:26