ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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美瑛川のほとりで。

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 今年も僕の夏休みは北海道でした。初日に、旭川のカワハラくんのお店「メランジェ」でフェアをやって、次の日からは運転手・ガイド付きの釣り三昧、のはずだったのですが、肝心の運転手兼ガイドが交通事故にあって欠席、とのこと。状況が状況だけに怒るに怒れない、でも面白くない僕は、思わず沈黙。だいたいがお喋りの人間なので、沈黙は最大の抗議です。困ったカワハラくん、とにかく車だけは確保したので、僕の知ってるポイントに案内します、と言います。運転も僕がするから、と。これにはさすがに沈黙をやぶらざるを得ませんでした。何故なら、彼の運転の下手さは有名で、多くの伝説の持ち主だからです。一説によると、ある駐車場から出ることもできなかったことがあるらしい。なぜなら、同乗者が駐車場内での運転で命の危険を感じ、強引に彼と運転を交代したから、等等。だから即答しました。運転はオレがする。で、どこ行くの?と尋ねると、美瑛川、という答え。
 旭川市内のほぼ中央を流れている川は、石狩川と美瑛川です。いくら上流とは言え、その一本の川で釣りをするなんて、わざわざ北海道に来た甲斐がないやないか、と僕は唸りました。でも、釣れた実績があるから、とカワハラくんは言います。50センチの虹鱒です、と。
 ほかに方策もないまま、フェアの翌朝、釣り場に向かいました。旭川の中心部から郊外に向かってドライブすること約25分、橋を渡った横に車を止めてください、と言う。もう着いたんかい、ダンプカーいっぱい走っとるやないか、相変わらず不機嫌なワタシ。だいたい渓流釣りというのに、コンクリートの立派な階段があって、アクセスもあまりに容易。こらあかんな、と最初から諦め気分なので、川原で仕掛けを作るのもパン食べながら。まるで緊張感も高揚感もありません。で、仕掛けもできたし、ダメモトでやってみるか、と目の前の瀬に第一投。流していると、コツコツと気配があります。あれ、と思って誘いをかけると、いきなりヒット。25センチ強の虹鱒でした。
 放流ものではないので、小柄ながらファイトします。一瞬で頭の中、真っ白。慎重に取り込みました。それから立て続けに3尾、同サイズを釣り上げ、しばらく間が空いた後、強烈なあたり。リールのない渓流竿なので、なかなか寄せることができません。ラインも細くしてあるのでちょっとヤバい、でもこの緊張感、釣り人にとって至福の時。やがて現れた流線型は40センチをかるく越えたアメマスでした。やっぱり北海道ってすごいな。都会から車でたった25分なのにこれやもんな。
 釣り上げた後、しばし休息、昨夜のフェアのことを思い浮かべました。
 今年は、僕とカワハラくんに加え、地元のイタリアンの若手オーナーシェフ、長登 仁泰(ながのぼり きみひろ)くんも参加。シェフ三人の競演ということで小さなレストランは二回転満員御礼。それぞれが負けじと力作を披露したので、客席の賑わいも盛大で、とても楽しかった。そしてなにより嬉しかったのは、僕の愛弟子が旭川で、フレンチの第一人者として受け入れられていることでした。常連のお客様だけではなく、カワハラくんを慕う同業者も多く来ていて、それはもちろんカワハラくんの功績大なのですが、豊中から遠く離れたこの街で、僕の蒔いた種が花咲いているような気がして、感無量でした。そして、力が湧いてくるようでした。それは多分、勇気、だったと思います。
 来年もまた参加させてください、と仁泰くんは両手で僕に握手を求めました。旭川でケーキ屋さんを開店したカワハラくんの親友、ホリエくんも来年はデザートを作らせてください、と言う。花屋の花太郎さんも、カシヤマ先生も、マルヤマさんも、そのほかのみなさんも、是非また来てね、と言ってくださる。はい、また来ます、もっと料理上手になって、また来ます。うれしいなあ、その言葉。
 本当は時々、僕は一番つらい道を、一番実りの少ない道を選んだんじゃないか、と思うことがあります。でも、ほら、頑張ってるとええ事もあるやん。
 美瑛川のほとりで、おおきなアメマスを釣り上げて、温かい出来事に思いを巡らせて、僕はそのとき、本当に幸せでした。

レザール・サンテ!  オーナーシェフ 道野 正
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by chefmessage | 2007-09-18 03:27