ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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タマ○ちゃんの結婚!

 もう12,3年前のことでしょうか。当時の僕は今よりずっとテンションが高かったので、厨房でも常に興奮気味で、うちのマダムが、そんな時のシェフと目を合わせてはいけない、とばっちりを受けるから、と従業員に耳打ちしていたくらいの緊張の毎日でした。(オレは箕面のサルか。)。そんなある日のランチタイム、なにかの拍子でキレた僕は、怒鳴り声をあげてしまった。その時、ホールと厨房との間の扉を開けてサーヴィスのスタッフが入ってきたので、僕の怒声がもろにホールに響いてしまいました。「オレが怒ってる時に扉開けるな言うてるやろ。」と、暴君ますます興奮。でも、さすがにマズいと思ったので、ホールの様子を見にいったら案の定、一番厨房に近い席の母娘と思しきお客様が怖そうにしている。あ、申し訳ないことしたな、せっかくの楽しいひと時をぶち壊してしまったな、と、箕面のサルと違って反省ということを知っている僕は、思いました。なんとか挽回しようと苦肉の策で、デザートの前にシャーベットを二つ用意し、それを持って謝りに行ったのですが、でも、もう来てくれないだろうな、とは思っていたのです。でも、この母娘のお客様はまた来てくださった。以来、10数年、うちの本当に大切なお客様です。ある日、お母さんが僕にこう言ってくださったことを忘れることができません。「ここにくるといつも元気をいただいて、明日も頑張ろう、と言う気になるんですよ。」。

 僕が同志社大学の神学部を卒業しながら、あえて料理人の道にすすんだのは、言葉というあいまいなものではなく、この手で作り上げたものそのもので人に力を与えたかったからです。精緻な料理は人を根源的に揺さぶる、そう信じてここまでやってきました。決して平坦な道ではないことは、先月のメッセージに書いた通りです。でも、千万の辛さを凌駕するものはひとつの混じり気のない真実です。そのことを確かめたいから、僕は厨房を離れることができません。そして、それが必ずしも間違いではないことを、皮肉なことに、そのお母さんの「言葉」が教えてくれました。ひとつのことを飽きず追いかけていると、解らなかったことも解るようになることがあります。
 元気をいただいているのは、僕の方です。

 その方のお嬢さんが、タマ○ちゃんです。最初に僕の店に来たとき、タマ○ちゃんは高校生でした。毎月見てるから、ぜんぜんかわっていないような気がするけれど、いつのまにか少女は大人になって、ずいぶん美人になって、お酒も強くなった、というか、強すぎて、ついでに気性もしっかり、それ故か、浮いた噂も聞かなかったのですが、ついに今日、婚約者を紹介されました。
 おめでとう、と言いながら、なぜかちょっと寂しい気分。べつにオレ、父親じゃないのに。
 考えてみれば、他にいっぱいレストランがあるのに、ずっとうちの店に飽きずに来てくれました。ずっと僕の料理から元気を貰い続けてくれたのです。でもこれからは、隣でにこにこしてる彼から元気を貰うんだろうか、そう思ったから寂しくなったのでしょうか。
 ただ、よかったなと思うのは、その彼もワインが好きで、うちの料理も気に入ってくれたみたいで。だから、これからも来てくれるという気がします。案の定、早速、来週の彼の誕生日に、お母さんと3人で来るからと予約を入れてくれました。

 タマ○ちゃん、オレもね、元気を貰ってくれないと元気になれないんだよ。でも、一人の少女が大人になって、妻になり母になり、その母はいつかおばあちゃんになり、そんな人生の移り変わりにずっと立ち会えて、お互いに感謝の気持ちを持ちつづけられるなら、この仕事やって本当によかったな、と思えるのではないでしょうか。。
 だから、この身が朽ち果てるまで、オレは厨房から離れられないだろうな、という気がします。そして、それも悪くないかな、と。
 来週は、ブルゴーニュ好きのタマ○ちゃんとお母さんに、ワインリストには載っていない、オレ様のとっておきをご馳走しようかな。
 
レザール・サンテ!  オーナーシェフ 道野 正
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by chefmessage | 2007-12-18 03:43