ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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Thanks,B.K.

  いつかたどり着くべき場所がきっとあるから
  僕はいつまでもこの歌を君のために歌うよ  (Bennie K ‘Better Days‘)

 今、僕たちの業界も人材不足で、若い人たちが定着しないし、それに不景気で人件費もばかにならないから、できる限り最少の人数で仕事をこなすようになっています。うちの店もそう。これまで僕は、仕込みと洗い物はしません、と宣言していたのですが、この頃は見かねて結構やってます。なんと賄いまで作ったりする。でも、やっぱり年齢なのか、単純作業がひどく疲れます。これ終わったらあれやってこれやって、と考えながらやってると、とくに。でも、いやな顔したくないから、なにか疲れない方法ってないかな、と考えて、ひとつ見つけました。iPodで音楽聴きながらやると、たんたんとこなせるみたい。ただ、お客さんがある時間帯は無理で、あくまで仕込中、とか洗い物中に限られますが。で、なにを聴くとはかどるか、と言いますと、これがBennie Kなんですね、なぜか。
 最初は、いまどきの女性ポップスね、という感じで興味なかったのですが、あるTV番組で見て、なんかかっこいいなと思ったのでCD借りて聞いたら、一発ではまってしまいました。軽薄そうに見せといて、でも、本気で表現しようとしている。メッセージソングっぽい歌詞が多くて、なにやら励まされてしまう。
 これって、今の若い子たちのフォークソングなんや。そう考えたら、さらに彼女たちがかっこよく見えて、僕はこのごろ、めっきりBennie Kファンです。おかげで仕事もはかどるし。でも、それでも、やっぱり疲れる、だから病院へ行ったら、どうも心臓に問題があるようです、ということになって、国立循環器病センターを紹介されて、こわごわ診察うけてみると、入院してください、というお達し。狭心症の疑いがあるとのこと。困りました。僕がいないと、お店、一日も開けられない。
  
 Cause I realized
 何もかも 上手くいかなくて
 I just cried for all these time
 でも いつだって
 笑っていたい 届かなくても   (‘sky‘)

 元ペガーズの亀谷シェフは、北新地のワインバー「クロ ド ミヤン」のシェフをやってたのですが、急に辞めることになったそうです。温厚で、実力もあって、でもなかなか状況は厳しくて、応援したいけれど、僕は、どうしていいのかわからない。心の中で、がんばれ、としか言えないのが悔しいなあ、と思っていたら、その彼から逆に心配されました。自分は体に問題ないからなんとかなるけど、ミチノさん、健康にならないとダメですよ。メールにそう書いてあって、文の末尾に、あなたのカメ吉より、とありました。

 誰だって迷う自分の道
 疲れたら休もうよ
 必ず扉は開けるから   (‘MY WAY‘)

 昼間、疲れながらも一生懸命仕込みをして、いつお客さんが来ても完璧、という状態なのにノー・ゲストの夜、神戸のパトゥでいつか食べた「桃とセロリの冷たいスープ」というのを思い出して、それに負けじ、と「メロンとウイキョウのスープ」というのを試作してみました。でも、テンション低い時はダメですね。これがおいしくない。自分でもわかっていたんだけど、隣でデザートの仕込みやってたマダムに味見してもらいました。彼女の一言。「これ、まずい!」。次に、従業員の皆さん。「あんまり好きな味じゃありません。」なかなか気を使ってくれている。でも、すっかり落ち込んだ僕は、そのことをファックスに書いて、パトゥの山口シェフに流しました。曰く、うちのマダムやスタッフには愛がない云々。
 次の日に、本人からTELあり。やっぱり彼のところも人手不足で、ファックスが届いた時、黙々と自分の仕事していたそうです。でも、僕のファックスを読んで、思わず笑ってしまったらしい。で、こう続けました。ミチノさん、僕のこと忘れずにいてくれてうれしかったです。
 シェフは孤独だ、これはシェ・ワダの和田シェフの口癖だったけど、でも、孤独なもの同士、相通ずるものはあると思います。忘れそうになるけど、みんな真剣だから、すくなくとも僕たちはひとりじゃないな。


 その手に包まれ、癒され、許され、解き放たれる  (‘UNITY‘)


 国立循環器病センターの最寄の駅は阪急の北千里ですが、そこに「いこい飯店」という中華料理屋さんがあって、このお店のオーナーの前田さんとは仲良くさせていただいています。うちの子供たちもここのラーメンが大好きなのですが、その前田さんから電話がありました。「ミチノさん、入院してよくなってください。ワシ、なんにもでけへんけど、弁当ひとつでも持って行きますから。自分で協力できることやったら遠慮なしに言うてください。」。涙がでそうになりました。
 
 入院することになったら、読みたかった本を消化しようと思って、アマゾンに注文いれるけど君も何かある?とマダムに尋ねたら「ゲゲゲの女房」という答え。なんで、と尋ねたら、貧乏な天才を支える参考にするから、と。喜んでいいのか悲しんでいいのか。
 たしかに僕には商才はないかもしれません。愛想もよくないし、間違っても媚びるなんてできないし。でも、だれにもできない仕事がしたくて、自分にしかできない料理を生み出したくて、それが自分の人生なんだと思い詰めて、たとえ世の中に必要なものではないにしても全力でぶつかって燃え尽きるつもりで。
 お客さんのNさんが仰ってくださいました。シェフの仕事は、フランス料理の枠を広げているんだから無駄じゃないです、と。
 よっしゃ、こんなに皆さんに大事に思ってもらっているオレの体や、入院しようやないか。
 そう覚悟して再診にのぞみました。すると。
 種々の検査の結果、狭心症と断定するには疑わしいので、他に原因を探します。ついては入院ではなく、外来でいくつかまた検査を行い、それから今後の方針を決定しましょう。

 快癒したわけではないので、時間はかかりますが、ひとまず入院しなくてもよくなりました。そして、ゆっくりと、健康な体に戻していくつもりです。
 僕はまだ、前へ進みます。あなたをもっと感動させたいから。そのために僕は生れてきたから。
 

 Check,Check it now ボクの空気を
 夢の途中で揺り動かされて
 現実と幻想の真ん中で 見失っても何か残したい

 雑踏の中 口ずさみまた
 流れ忘れかけてた Melody  (‘Melody‘)

レザール・サンテ!  オーナーシェフ 道野 正
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by chefmessage | 2008-07-18 03:49