ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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夜更けに靴を磨きながら

 ニーチェのツァラトウストラに、「昼間なのにこんなに暗いのは神が死んだからだ。」と叫びながら走りまわる男の話がありましたが、今の日本はなんだかそれに似て、アメリカという神が重病なのですっかり意気消沈して途方にくれている小市民、という感じがします。まるで明日という日が来ないような気分。確かに大企業が軒並み赤字を発表し、解雇される人が沢山いる、という現実は重苦しいけれど、だからと言ってすべてに後ろ向きになっていていいのだろうか、という気がします。外には陽の光が射しているのにカーテンを閉め切って、その中でじっと身をひそめているような。
 ぼくの店も連日、静かです。ほんとうに辛い。もっとお客さん、来てよ、と思います。元気にしてあげるから。でも、予約が入らない。

 眠れないので夜更けに思い立って、何故か靴を磨くことにしました。随分長いあいだほったらかしにしておいたから、革にカビがはえている。前から気にはなっていたのですが、なんだか面倒だし、この頃はスニカーしか履かなくなったので出番もないし。でも、やっているうちにだんだん楽しくなってきました。一生懸命やってると、生き返ってくるんですね。くすんでいたのが少しずつ輝きだして。オレ、若いころはよくこうして靴磨いていたなあ、と思いだして。
 今ではジーンズ以外めったに履かなくなりましたが、昔はスラックス党でした。初めてジーンズ買ってはいたのは20歳になってからです。IVY少年だったから、ジーパンは労働者がはくもんだ、なんて生意気なこと言ってました。そして、デートの前の日には必ず皮靴をピカピカに磨いて。
 ピカピカに磨いた靴をはいて歩くと、晴れがましい気分になれました。気分が高揚しました。いいことがありそうな気持ちになれた。いつからでしょう、忙しいからと、何にでもジーンズを合わせスニーカーばかり履くようになったのは。日々の暮らしに追い立てられて、僕は靴を磨かなくなってしまいました。
 面倒だったんだろうな。で、気がつけば、ぼくも途方にくれている。
 
 いつのまにか3足の皮靴を磨き終えていました。明日、早起きだというのに。でも、悪い気分ではありませんでした。

 この話に、オチはありません。昔を懐かしがっているわけでも、これからはあくせくせず、もっとのんびりいきましょう、というメッセージを込めているのでもありません。ただ、人は簡単なことで気分転換ができるように思ったから、何となく書いて見ただけです。そう言えば、ヴィトゲンシュタインの「哲学」にこんな一節がありました。うろおぼえだけど。
「前しかみていない人間には、その部屋の出口がわからない。後ろを見れば窓があるというのに。」。

 阪急キッチンエールという宅配の会社と組んで、いくつかお惣菜を売ろうか、と考えています。今までだったら考えられなかったけど、今ならやってみようか、と。そこで、アトピーの子供たちのための御馳走を考えました。生き延びるためにやる仕事だけれど、どうせやるならやっぱり喜ばれたいから。なによりぼくは、どんな時代になってもおいしいものを作りたい。
 たとえ部屋のカーテンを閉め切っても、端っこは開けておいてください。そして、たとえわずかでも世界とつながっていてください。夜の暗さに押しつぶされそうになったら無心に靴を磨いてみてください。ピカピカになったとき、ちょっとだけでも笑顔になれるはずだから。
 辛くてもがんばりましょう。
 
レザール・サンテ!  オーナーシェフ 道野 正
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by chefmessage | 2009-02-18 03:57