ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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<   2010年 05月 ( 3 )   > この月の画像一覧

どうもぼくは基本的に団体競技が苦手なようで、みんなで集まって何かをするということが億劫で仕方がありません。協調性に欠けるというか、ひとかたまりになって邁進するというのに照れがあります。もう少しそういう部分を変えることができれば、もっと視野の広い人間になれたように思うのですが、この年になって今更なあ、と相変わらず面倒がって、いまだ改善の気配がありません。
 でも、そんなぼくがもう20年も所属して、あろうことか理事さんにまでなっている団体が一つだけあります。それは千里中央にある環境衛生同業組合の千里ニュータウン支部です。開業資金借り入れの窓口になっていただいたのが最初のご縁なのですが、それ以来何かとお声をかけていただいて、可愛がっていただいて、名ばかりで何もできないのに理事にまでしていただいて今日に至っています。飲食店のオーナーばかりの組合なのですが、中華料理・しゃぶしゃぶ・和食などさまざまなジャンルの方がおられるので面白いし勉強にもなります。
 そのニュータウン支部の年に一度の総会が、5月19日に千里阪急ホテルで開催されることになったのですが、懇親会での食事の時に毎年行うアトラクションを何にするかがあるときの理事会の議題になりました。和太鼓とかオペラとか、その年ごとに理事会で選考するのですが、今年は組合員でもある歌手の永田カツ子さんにお願いしようということで決定。
 そして当日。予算案などのお堅い議題が並ぶ総会が無事終わり、懇親会になってアトラクション。派手な作務衣にちゃんちゃんこ、赤い鼻緒の草履というおなじみの衣装で永田カツ子さん登場。
 なんどか永田さんの歌は耳にしているし、組合の旅行でカラオケご一緒したこともあるので、ぼくにはおなじみの歌い手さんといった印象です。でも、久しぶりに聞いたこのときの歌は違っていました。すごく軽やかで、抑揚が豊かで、なにより悲しい歌には悲しみが、楽しい歌には笑いがあってそれがしっかりと伝わってくる。聞き惚れてしまいました。そして、失礼ながら、一段とお上手になられた、と思いました。
 そう思ったとき、ぼくは、とても深い感動に包まれました。
 多分、ぼくよりもお年は上のはずです。でも、この人は今までで最高の歌をうたっている。
 やれば出来るんや。もっともっと上手になれるんや。それが実感できて、すごくうれしかった。
 数日後、感謝の気持ちを伝えたくて永田さんにメールを打ちました。すると返信があって、そこにはこう書かれてありました。
「だんだん出なくなる声に気づき 声に頼らず 下手に歌ってもいいから楽しもうと思ったらとても楽になって・・・。」残念ながら、ぼくはまだそこまでの境地には至っていません。むしろ体力・気力が尽きる前に望む場所にたどり着きたい、そんな思いで毎日必死です。
 そう言えば先日、久しぶりに御影ジュエンヌに食事に伺ったのですが、初孫が生まれてめでたくおじいちゃんになった大川シェフがこんなことを言ってました。「できるだけ孫の顔、見ないようにしてます。」「なんで?」「闘争心が薄れるから。」。おいおい、君はまだ戦い続けてるんか。こないだ、ジャン・ムーランとの戦いが終わったと言うてたやないか。
 でも、気持ちは大いにわかります。ぼく自身、ITで武装したクールな若手シェフ軍団に対して、いい年して無謀にも、義理人情で挑んでいるのですから。勝ち目があろうがなかろうが、そうしないと収まらない自分があるから。
 永田さんの新曲のエンディングの台詞ではありませんが、「あほやなあ。」と思います。なにをそこまで青筋立てて、という感じです。でも、先述の永田さんのメールには、こうありました。
 「神様から貰ったこの喉が枯れ果てるまで歌いたいと思っています」。 ああ、これやな。そのことに理由はないけれど、永田さんは歌い続け、ぼくや大川シェフは料理を作り続けます。そして自分の人生が無駄でないことを証明したいとこころから願っています。そうすることで、誰かを元気にしたり勇気づけることができたなら、それ以上うれしいことはないから。
 正直言って、苦しい毎日です。辛くて音を上げそうになることもあります。でも、永田さんの歌で勇気いただいたから、まだまだがんばろうと思います。そしてもっともっと上手になってやろうと思います。
 だからいつか永田さん、佐川満男さんとのデュエットでヒットとばした名曲「かんにんしてや」を一緒に歌わせてください、なんて、オレやっぱり目立ちたがり屋なだけかな。「あほやなあ」。
 
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by chefmessage | 2010-05-30 18:35
ゴールデンウィークは予想に反して全くの不振で、冷蔵庫の中の減らない食材と余白ばかりの予約帳を眺めてはため息の連続でした。さすがのミチノシェフも弱気になってしまって、もうオレの名前ではお客さんを呼べないのではないか、などと考え夜も眠れない始末。せめて連休明けにはもう少しなんとかなるか、と思っていたらこれがますます酷い状況で、本当に情けない。
 考えてみればこの5月で、独立以来、満20年を迎えます。いったいオレは何をやってきたのか。慣れ親しんだ店を手放し、住み慣れた家を出て、最後の力を振り絞ってはじめた福島の店も不振ということになれば、一体どうすればいいのか。途方にくれた心に、「我の持たざるものは一切なり」という萩原朔太郎の言葉が浮かんでは消え。
 このままではうつ病になってしまいそう、と思ったぼくは、定休日にツタヤで一本のDVDを借りてきました。気分転換にはやっぱりアクション物でしょう、ということで選んだのは、リーアム・ニーソン主演の「96時間」元CIAの工作員だったらしいオヤジが、人身売買の組織にさらわれた一人娘をパリから奪還してくる、という物語です。
 リーアム・ニーソンで思い浮かぶのは「シンドラーのリスト」でしょうか。「スターウォーズ」ではアクションもやっていたけど、どちらかというと演技派の印象で、その彼が激しいアクション、それも主役で、ということで以前から見たかったのです。
 さて、ソファーの定位置に腰を下ろして、途中で寝てしまったときのためにおなかの上にクッションを置いてスイッチオン。最初は、選択ミスだったかな、と思いました。離婚した元妻と暮らす一人娘の近くにいたくて、定職に就かず引越しまでするオヤジ。そんな馬鹿な。でも、娘が誘拐されたあたりから印象が変わります。目的に向かってまっしぐら。人命尊重もなにもあったもんじゃない。強い、とにかく強い。絶対にやられないし、窮地に陥ってもすぐに挽回する。ハッピーエンドまで一気呵成でした。
 何気に見ていたうちの奥さんも、最後にこう言いました。「やっぱり男は強くないといかんね。」。ぼくも言いました。「そや、オトーサンは強ないとあかんのや。」。
 本当のところ、ぼくは強い女性が好きです。うちの奥さんもそうですが、伊坂幸太郎の「モダンタイムス」に登場する暴力妻や、誉田哲也「ジウ」のヒロイン伊崎基子みたいな物理的に強い女性に憧れます。それでも、やっぱり男はまっすぐで、なにがあっても挫けるべきではないな、と。
  
 豊中に「アムズオクロス」という非常にマニアックな眼鏡屋があって、そこの店長の杉本君と話していて一致した結論があります。それは、今は、儲けた者が勝ちだと思われている、ということです。
 例えばメガネの場合、誰かが素晴らしいデザインの商品を展示会に出す。それは、製品化されるまで手間と時間が随分かかっています。そもそもそれ以前に、デザイナーその人も紆余曲折を経ている、というか、多大な努力をしてきています。だから当然その分高価になるのですが、それを購入してコピーし、安価に大量生産して売りさばく連中が大儲けをする。そして、そのような安物でとりあえず満足し、そのような手法でリッチになった人間を無条件に羨ましがる人たちがいる。
 だから自分の目でいいものを見極めてそのような商品を仕入れても、高いから、という理由でなかなか売れない。
 「それでいいんですかねえ。」と杉本君はいいます。
 フランス料理の世界もそうです。フランスのあの店と東京のあの店のオリジナルを足して二で割って理屈をまぶし、上手にブロガー達をおだてて評判を上げ、連日満席になったら天下を取った気分でいる。そしてそんな人物を英雄視する世の中がある。血のにじむような努力が見えなくて、こつこつと積み上げられた実力が判断できなくて、素人が幅を利かす世の中から本物がどんどん消し去られていく。
 あ、いかんいかん、負け犬の遠吠えというやつになってますね。

 とにかく。それでも男は強くあるべきだと思ったわけです。では、その強さとは何なのか。
「96時間」で、自身の豪邸の地下に人身売買の秘密の競り場を造ってそれを運営している男が、娘を取り返しにきた主人公にこう言う場面があります。「これはビジネスなんだ。だから理解してくれ。」。強さとは例えば、それとはまるで異なる理解をもち続けることのような気がします。
 しかしそれよりも実際問題としてぼくは、

 とりあえず今夜から筋トレ、始める決意であります。
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by chefmessage | 2010-05-16 18:30

新しい風

まだ東京にピエール・ガニエールのお店ができる前のこと。大阪のホテル・ニューオータニでガニエールのフェアがあるというので行ったことがあります。それ以前に他の何軒かの有名ホテルで、三つ星のシェフが来る、という催しに参加する度にガッカリした経験があったのであまり気がすすまなかったのですが、日ごろ懇意にしてくださっている方のお誘いだったので行くことにしました。以前よりガニエールに興味があったし、同席者がぼくの親友である「モンテラート」の横山シェフとそのご家族ということ、それに責任者がドミニック・コルビ氏だからはずすことはないだろうというその3点が決め手になりました。
 正直言って、ぼくはホテルのレストランのサーヴィスは好きではありません。誰に対しても慇懃無礼だという印象があるかもしれませんが、実はすごくエコヒイキが激しいと思っているから。勿論、同業者ですからやむ終えない部分が多々あることは認めます。でも、ちょっと露骨すぎるような気がして。
 当日もやはりそういった点が気になりました。でもまあ、それにさえ目をつむるならばいい催事だったと思います。
 初めて食べるガニエールの料理は、やっぱり素晴らしかった。おいしいかまずいか、そんな判断が意味をなさないと思えるほど想像力豊かで、その才能に圧倒されました。とにかく食材の原型をとどめているものが全然無い。一発勝負ならばとにかく、そのような料理を延々と数十年に亘って作り続けるなんて、狂気としか思えない。こころから尊敬しました。
 その尊敬の対象が、デザートのときに各テーブルに挨拶に回ってきました。ぼくたちのテーブルにもやってきた。
 その日は、横山夫妻の愛嬢、小学校5年生の愛ちゃんの誕生日でした。彼女にぼくのささやかなプレゼントを差し上げたばかりだったので、ムッシュ・ガニエールにも「今日は彼女のお誕生日なんだよ。」と告げました。すると彼はいきなり愛ちゃんの頭を両手でそっと包んでキスしたのです。そして笑顔で、「おめでとう。」と。
 やっぱりフランス人のやることはかっこええな、よかったな横山君、と言おうと彼のほうを見ると、なんと彼が泣いているのです。
「道野さんとピエール・ガニエールに祝福してもらって、ぼくは親として本当にうれしいです!」。
 なんと純粋な男なのか。この日、ぼくは尊敬できる男を二人もみつけました。

 その横山君が、谷町9丁目から北浜にお店を移転しました。店名も「モンテラート」から「プログレYOKOYAMA」に変更しての再出発です。成功をこころから祈りたいと思います。
 彼の野菜に対するこだわりが半端でないことは周知の事実です。ぼくは以前、こだわりすぎて袋小路に突き当たってしまいましたが、彼なら大丈夫だと思います。というのも、ぼくは彼の肉料理のおいしさも知っているから。そしてなにより、彼には枯れることのない好奇心があります。そして常に挑戦し続けています。そういうところが、とても素敵だとぼくは思っています。
 彼のお店が落ち着いたころを見計らって、行ってみるつもりです。皆さんもどうか応援してあげてください。
 
 で、あと一軒。

 ぼくの店と同じ福島区のJR新福島駅の近くに「ラ・ブリーゼ」というかわいいお店ができました。以前、ぼくの店で働いていた北川達夫君がオーナーシェフです。
 彼の思い出話を一つ。
 あれは丁度、お正月用の御節を作っているときでした。30日の朝に魚介類の仕入れに彼と出かけたのですが、帰ってみると、エスカベッシュ用のワカサギ200尾が見当たりません。年末なので再度の発注は不可能だし、他に重箱の一角を埋めるものもありません。車に積み込む係は北川君だったので、ぼくは彼に問い質しました。顔面蒼白の彼は、「すぐ市場に探しに行きます。」と言って、バイクにのって走っていきました。年末のごったがえした市場のことです。見つからないだろうとぼくは思っていました。
 それから数十分後、彼から電話が入りました。「シェフ、魚屋の前にありました!」。
 聞くと、彼が台車に乗せようとして忘れたその場所に、そのまま手付かずで置いてあったそうです。多分、年末の買い物客の皆さん、自分の買い物で精一杯で、だれも忘れ物に気がつかなかったのでしょう。「よかったです。ラッキーです。」興奮して、震える声で、でも本当にうれしそうで、思わずぼくも「よかったなあ。」と言いました。
 ここにも純粋な男がいます。
 お店は、長男の彼とイタリアン出身の弟、それにパティシェの妹、ときどきオカン、という家族ぐるみの経営です。早くにお父さんを事故でなくした家族が、総力結集しての出発です。料理は、ミチノの弟子にもかかわらず、今時珍しいクラッシックなビストロ料理。ネオビストロだのスーパービストロだの、昨今の浮ついたなんちゃってビストロ料理とは明らかに一線を画した正統派です。メニュウを見ると、これが食べたいものばかりなんです。仕事が早く終わったときに、自転車で行って上から下まで何回かに分けて全部食べてやろうと思っています。それになにより、値段が安い。ここも強力おすすめです。
 ちなみに、ブリーゼとはそよ風の意。家族総出だから、店名は「北川家」にしなさいと言ったのですが却下されました。「シェフのところが旋風やから、ぼくならそよ風くらいかなあ、と思ったんです。」。言うこともかわいいじゃないですか。
 以上2軒、新しい風が吹き始めました。がんばってほしいと思います。そして彼らに負けないように、ぼくもがんばろうと思います。

 

 
 
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by chefmessage | 2010-05-10 14:10