ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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今回は、自作の料理について語らせてください。
 新しいディナーコース(¥5,250)の中に、「ムッシュロワゾーへのオマージュ」と名づけた一品があります。今回はメニュー内容の説明を、前回試みたような叙情的表現を避けた簡潔なものにしようと心がけたのですが、この料理に関してはそうすることができませんでした。
 料理そのものはカリフラワーのポタージュにフォアグラのグリエを浮かべたもので、ぼくがずっとやり続けてきたものです。でも、これにはけっこう思い入れがあります。もう25年も前のこと、今は亡きベルナールロワゾーの率いるコートドールで感銘を受けた料理だったから。
 そのころのコートドールはまだミシュラン二つ星でしたが、三つを掴みとる寸前で、店全体に活気が満ち溢れていました。ディナーが始まると、出来上がった料理を置く台の横の定位置にムッシュが立ちます。そして、戦争状態が激しくなり始めると大声で檄を飛ばし始めます。よくわからないけれど、わめいています。どうやら自分の苦労話を語っているらしい。時々、声を震わせて泣きまねをしている。そして、でもオレはもうすぐ三ツ星を取るんだ、やれば出来るんだ、挑戦だ、お前たち今やらなくてどうするんだ、みたいなことを両手広げて叫んでいる。厨房全体のテンションが彼の檄にあわせて高まっていくのが感じられて、緊張するけど楽しかった。
 そんな中で覚えたカリフラワーのポタージュは、単純にカリフラワーをソテーして、お得意の水を注いで煮、塩してミキサーで回すだけのものだったのに、とてもおいしかった。野菜のもつポテンシャルの日仏の違いが鮮烈でした。
 そのムッシュロワゾーが亡くなってもう何年になるのでしょうか。「何故、4ツ星がないのか。」。生前、守る立場の苦しさを彼が表現した言葉ですが、ぼくの記憶の中に今もいる彼は、困難な目標に向かって果敢に挑戦するひとりの男です。あの姿を忘れてはいけないな、そんな思いがこもった料理です。

 もう一品、紹介させてください。これは10月から内容を一新するランチ(¥2,625)のオードブルです。
 お皿にジャガイモとイワシを重ねてプレスしたテリーヌを置きます。そのうえに、ドレッシングでかるくあえたいろんな野菜。てっぺんに乳化させたベルガモット風味のオリーブオイルをのせます。これでひとつの料理、というかサラダになるのですが、さらに温めたイワシのビスクスープを横から注ぎます。
 料理に詳しい方ならお気づきになることでしょう。スペインのムガリッツの定番で、今や日本のモードスパニッシュの皆さんがやっている料理の手法を取り入れています。
 今、関西ではモードスパニッシュのお店が大人気で、新しいもの好きのぼくも食事にいきました。ともにムガリッツで働いた経験のあるシェフのお店に2軒。前述のサラダは両方のお店でいただきました。でもぼくの正直な感想は?。
 見た目はすごくきれいです。でも、ドレッシングであえていないから、これは新鮮なものを使っている限りにおいては当然のことです。これもムッシュロワゾーの話で恐縮ですが、彼がサラダについて語った言葉をぼくは今も覚えています。野にあるタンポポそのままの姿で、でも、葉一枚一枚にドレッシングの味がすること。料理に詳しい方なら、それがいかに困難なことかご理解いただけると思います。葉物野菜は塩と酸で一気にへなへなっとなります。オリーブオイルをふりかけると、やはり同じことに。
 だから、それを克服するためにぼくたちはいろんな努力をします。ドレッシングの調合を変えたり、葉の裏側にドレッシングを刷毛で塗ったり。だから、スープのうえに味のしないぱりぱり野菜を山盛りにしたものは感覚的に馴染めません。なまじっか野菜が新鮮なだけによけい違和感があります。
 もし自分だったらどうするか。これは料理人が他人の料理を前にしていつも考えることなのですが、その答えをぼくは出そうとしました。その結果が今回のこの料理です。だから、ぼくはこの料理がコピーだとは考えていません。手法がおもしろいから、自分のやり方でやってみたくなったのです。
 それがまちがっているかどうかは、食べた方が判断してください。
 前述のメニュー内容の件もそうです。アコルドのメニュー表記が楽しかったから、一周年のディナーでぼくもやってみたのですが、一部の方々に物まねしたかのように書かれて、それがいやだからやめることにしました。楽しいから、本当はずっと続けたかったんだけど。
 ある手法に出会い触発されて、正しく理解し、それを継承してよりよいものにしようとする努力があれば、それは決して物まねではないとぼくは思うのですがいかがでしょうか。

 いずれにしても、ぼくは今日も一日中料理のことを考えています。今やらないでいつやるんだ、厳しいけれど懐かしい、そんな声が聞こえています。

追記
8月30日更新のブログ「伝えたいこと」の文が途中で切れてました。再度アップしてますので、また見てみてください。
 
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by chefmessage | 2010-09-30 12:13

神様の微笑み

一周年フェアは、思ってもみなかったほどの大盛況で終了しました。
 この一年は本当に暗中模索の日々で、どうすれば新しい場所に根をおろせるのかが判らず随分悩みました。その状況を引きずったままのフェアだったのですが、変に策を弄せず、ど真ん中に全力投球することだけを考えたのがよかったのでしょうか。たくさんの方にお越しいただきました。体力的にはかなり厳しい毎日でしたが、うれしかった。
 ただ、なにぶん小さな店なのですべてのご予約にお応えすることができず、それが心残りだったので、フェア終了後も同じお値段のコースを新たに設定することにしました。それも、フェアのときよりも内容は充実させています。2年目に向かって、真価を世に問う、といったところでしょうか。
 そんなことを考えながら、新メニューの出来を再検討していたある夜のこと、三重県から一組のご夫婦が食事にきてくださいました。マネージャーの原が、厨房からでれないぼくに「同業のお客様です。」と言って、その方の名刺を差し出します。そして、「ぼくのこと、時計で思い出してくださいました。」と話します。どういうこと?と問うと、「シェ・ワダで働いていたとき、その日はアンティークのジラールペルゴをはめていたのですが、それを見せてくれ、と仰ったお客様がいて、どうもその方のようです。」「君、ペルゴの時計持ってなかった?と言われたのでびっくりしました。」と。
 その方の時計や靴、お持ちの鞄やお車でどなただったか思い出す、そういうことってよくあります。よほど時計好きな方なんだろうな、と思いました。「一段落したらオレもご挨拶に行くから。」そう言って名刺を預かりました。
 最後のお客様のメインをお出ししたあと、さきほど預かったお名刺に目を通すと、Kさんというお名前で、ぼくと同じフランス料理店のオーナーシェフでいらっしゃる。でもそれ以外に、なにやら記憶の奥底でうごめくものがあります。あれ、この方、アンティークの時計屋さんではなかっただろうか。
 以前まだ独身だったころ、ぼくはアンティークの腕時計に夢中で、その関係の雑誌はかかさず購読していました。そして、どこのお店でどんな時計を売っているかを知るのが楽しみだった。だいたい広告のでている店は毎回同じところなのですが、時々、一階が時計屋で二階がフランス料理店という不思議なお店が広告を出していました。自分と同業だからよけい気になったのでしょう。数は少ないけれど結構マニアックな品揃えで、お値段も手ごろだったように記憶しています。ひょっとするとこの方かなあ、でもまちがいだったら失礼だしなあ、と思いながらご挨拶にでて、とりあえずおそるおそる新しいコース料理の感想を伺うと、たいそうお褒めいただきました。それでなにやら気が楽になって、ひょっとして時計屋さんもやってらっしゃいましたか、とお聞きするとまさにその通り。
 今は閉められたそうですが、お互い同時代に同じものに夢中になった者同士。話がはずみます。そして、あいつ知ってますか、こいつ知ってますか、という話になって、懐かしい名前もぽんぽん出てきます。そのなかに新潟の元時計屋のKの名が出てきました。最終的には自己破産してしまって今は全く音信不通ですが、この男とは長い間、本当に楽しくつきあわせてもらいました。
 最後に時計を二つ持ち逃げされたし(フランク・ミューラー!)、わずかでしたが借金も押し付けられましたが、今でも時々、どうしているかなあ、と思い出します。とにかくお人よしで、それが結果的に彼を破産に追い込んだのでしょうが、とにかくぼくにとっては親友でした。元気でいればいいけどなあ。
 三重県のKさんはホームページのぼくのメッセージを読んでファンになったということで、わざわざ食事に来てくださったのですが、古い友人に久しぶりに出合ったような喜びをわかちあうことができました。今はもう昔のように、高価な時計を身に着けることはできないし、そのような望みもありません。崖っぷちに立って風に抗しながら、それでも前に進もうとあがいている、というのが本当のところです。でも、時々神様は、こういう出会いでぼくたちを励ましてくださいます。それならばまた、あのお人よしのKにも会えるかもしれません。
 Kさんは今年でお店を始めて27年になるそうです。ぼくは22年。長いけれど、まだこころはお互い若造のまんまです。励まし、励まされながら、それでも進んでいったなら、神様はまた微笑んでくださるような気がします。でも、そのためには千客万来。新しいコース料理、みなさん食べに来てください。

ご本人の了承が取れましたので、三重県のKさん(河瀬 毅さん)のお店をご案内します。
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by chefmessage | 2010-09-29 11:49