ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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受けてたつということ

数日前のことです。仕事を終えて帰宅し、寝ている家族を起こさないように用意された食事を温め直し、夕刊を読みながらそれを食べていると玄関のインターフォンがピンポンと鳴りました。なんだか遠慮しがちに、でも深夜に驚かせるには十分な音量です。壁の時計を見ると12時過ぎ。誰が何の用事で?けっこう嫌な感じです。でも、出ないわけにはいかないのでおそるおそる受話器を取って「はい?」とたずねると、「あたし」という答え。うちの下の娘、臨(のぞみ)の声です。いぶかりながら戸を開けると、パジャマ姿で、お気に入りのパンダのぬいぐるみを抱えて立っていました。「どうしたん?」「寝られへんねん。」
 いったいこの子はどこで寝ようとしていたのか。本人に聞いてみると、となりのおうちに泊まりに行っていたらしい。
 我が家のお隣さんには、うちの娘の仲の良い友達がいます。もう一人の仲良しと以前から泊まりにいこうと約束していたそうです。でも、どうしても寝れなくて帰ってきたんだと。
 この娘は小学校5年生です。なのに、いまだに母親がいないと眠れません。子供たちだけで家内の実家に行っても、毎晩ホームシックになって義母や義父を困らせます。今回は仲良しのお友達が集まっているし、お隣のことだから大丈夫、と思って、でも、お気に入りのぬいぐるみと慣れた毛布まで持参して万全の態勢で臨んだようですが、やっぱりだめだったようです。
 帰宅した彼女は、母親の眠る二階にまっすぐ上がっていきました。眠れない、とまた降りてくるのかな、と思っていたら、そのままだったので安眠できたのでしょう。翌朝、家内に聞いてみると、朝まで母親の手を握っていたそうです。
 ほかの子供たち、長男と長女はすくすく育って、中学3年の長男は、もう少しでぼくより背が高くなりそうです。でも、甘えん坊の次女は元気いっぱいなんだけれど、あまり背が伸びません。食い意地は兄弟姉妹で一番なのですが。
 この娘はぼくが47歳のときに生まれました。だから、ぼくはまだまだ働かねばなりません。家内に言わせると、ぼくは70歳まで仕事を続けないといけないそうです。できるかなあ。
 たまに専門料理という雑誌なんか見ると、第一線のシェフたちはみんなまだ三十代で、やってる料理も斬新で、気後れしてしまいます。自分の才能と体力の限界を知らされている人間が立ち向かえるとは思えない。若いものには負けへんで、と強がってみたところで勝負の趨勢は見えているような気がします。
 でも、ぼくには今、守らねばならない家族がいます。だから、後には引けません。それは家族のために自分を犠牲にするということではありません。むしろ、家族の存在がぼくを支えてくれている、ということだと思います。だから、今のぼくは手強いはずです。ぼくの料理は斬新さはないかもしれないけれど、こころに響くほどおいしいだろうと思います。そして、それを70歳まで続けてみたいとこころから思います
 次女がパンダのぬいぐるみを抱いて佇んでいた夜更けの玄関先、彼女の足元にはどこからか運ばれてきた桜の花びらが風に舞っていました。その光景が今、こころにくっきり転写されています。それを見てぼくはこう思います。どんなに辛くても、おれの運命は受けてたってやる。
 今年の桜は忘れられない桜になって散ろうとしています。でも、来年もきっと桜は咲くでしょう。そのこと忘れない限り、ぼくたちは頑張れるような気がします。 
 
 
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by chefmessage | 2011-04-17 17:47