ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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夢見る悪人

妻夫木聡と深津絵里が出演している「悪人」というDVDを観ました
 ぼくは完全に夜型なので、家族が寝てしまった深夜にDVD観たり音楽聴いたりする時間がないと眠れません。いくら疲れていても、というか疲れているときほどそのような時間が必要みたいで、だから一週間借りれるDVDは必需品です。
 でも、もう寝ようと踏ん切りがつきやすいものでないと朝が辛いので、恋愛ものと青春ものは基本的には好みではありません。だから「悪人」を借りたのはたまたまで、面白くなかったらすぐ寝ようと思っていました。ところが、これが結構、ささってくる。原作は、吉田修一の小説で、彼の本は何冊か読んでいたのですが、だいたい原作よりもよくできた映画にお目にかかったことがないので、これは以外でした。まあ、多分に深津絵里の名演技があるからでしょうが。
 その映画のなかで、殺された女性の父親(柄本明、本当はあまり好きではありません。)がこんなことをつぶやいていました。「その人が喜ぶことをしてあげたら自分も幸せな気分になれる、そんな人が人間には必要なんだ。」。劇中の科白なのでうろ覚えですが、だいたいそういう内容だったと思います。それを聞いて、ぼくは家族のことを思いました。そして辛くなりました。幸い、ぼくにはそのような対象となる人たちがいるけれど、でも、ぼくは彼らの望むことを何一つしてあげていないのではないか。ほかの仕事をしていたら、もっと経済的にも時間的にも余裕があったのではないか。結局、ぼくは自分のわがままで、彼らに我慢を強いているのではないか。
 やりたい仕事だけやって、自分だけがいい気になってはいないか。
 夜中に重いため息が一つ。オレも悪人か?
 せめて、借り物ではない自分たち家族の家をもちたいと思います。それが夢といえば夢でしょうか。もちろん、これまで家を買うということが出来なかったわけではありません。でも、その必要がありませんでした。住むところくらいはついて回る、そんな環境だったから。でもある日、それが激変して。
 かつてはマイホームパパを小馬鹿にしてアウトローを気取っていたわたくしですが、深く反省しております。こうなれば意地でも家一軒建ててやる。それも、正攻法で。
 とにかく全身全霊で、素晴らしい料理を作り続けてやろうと思います。頑固にやりたい仕事だけやって、それをこつこつ積み重ねて念願のマイホームだ、と言っても何年かかるか、何年住めるかわかりませんが。でも、家族が「ただいま」と帰ってきて、ほっとできる場所くらい人並みに作ってあげたい。たとえそれくらいしか出来ないとしても、今のぼくにはそれが精一杯で、それをわがまま押し通してやり遂げることができたなら、まあ、この人生もわるくはないかな、と思うのであります。
    悪人も とどのつまりは 家一軒
 で結局、ぼくは最後まで「悪人」観てしまって、すっかり寝不足になってしまいました。でも深津絵里の演技、素晴らしいですよ。よろしければ皆さんも是非観てください。
 
 
 
 
 
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by chefmessage | 2011-08-25 12:34

再び、アコルドゥにて

大型の台風がそこまで来ているというのに、第二阪奈道路をぶっ飛ばして、男二人でモードスパニッシュの雄、アコルドゥ訪問です。今回は、前のブログにも書いた「亀の子」北川くんが同行。というのも、アコルドゥのシェフ川島宙(かわしま ひろし)さんと昔、一緒に働いたことがあると聞いていたので、ミシュラン奈良版で星を獲得して忙しくなる前に、食事に行こうということになったのです。
 小心物の亀の子はぼくの運転がこわいみたいで、冷や汗かきながらぼくを説得します。「シェフ、わかってますか、シェフの運転にトゥールビヨンとブリーズの将来がかかってるんですよ。」。それでも委細かまわず車は突き進みます。時々、「うわ!」とかいう声を聞きながら、無事到着。駐車場に車を入れたとき、予約30分前。「1時間で行ける言うたのに急かすから、早く着いてしもたやないか。」「でも、渋滞して遅れたら迷惑かけるじゃないですか。」「まあええわ、行こうか。」「でも、早すぎても迷惑じゃないですか。」。とにかく、こうるさい男です。
 お店に入ると、川島さんが笑顔でお出迎え。北川君を見て、「懐かしい人を連れてきてくれましたね。」と言います。北川君と少し話して、それではどうぞ、と席に案内してくれます。そうして、素敵な晩餐が始まりました。
 全部で11品の皿。あいかわらず、すばらしい料理の数々です。その度ごとに、ああだこうだ、同行の人が半畳を入れます。結局、最後まで料理の話ばっかり。周りを見回すと、他の席はカップルばっかり。思わず、我が人生の潤いのなさにため息をつくわたし。
 これはどうやって作るのか、これにはあれを使っているのではないか。同業者ならば、自ずと気になるところでしょう。でも、ちょっとわずらわしい。むしろ、自然に受け入れて、そこから伝わる波動にこころを震わせるべきでしょう。
 まるで絵画のように料理が構築されています。こころに浮かんだ風景、印象が,素材とテクニックで巧妙に表現されています。今話題のNOMAもかくや、と思わせるモダンさの中に、日本人ならではの感性が息づいています。いや、まいったな。
 食事の後、シェフとまたもや料理談義。こちらもモード・スパニッシュが嫌いではないので話が弾みます。楽しいひとときを過ごさせていただき、その日はお開きに。
 帰り道、亀の子が助手席で、来てよかった、としきりに感心しています。
 そうして、北川君と別れ、帰宅したのですが、何故か満たされないものが残っている。まだ何か食べたい感じなのです。物理的には満腹で、苦しいくらいなのに。
 で、結局、冷蔵庫にある残り物とご飯を食べて、夜中に苦しくて目が覚めて。
 翌朝、マダムに「食事に行ったのに、その後また何か食べたの?」とあきれられます。いったい何をしているのか自分でもわからない。
 これは一体どういうことなのか。思うに、満腹感と意識が同一化していないのではないか、と。
 正直、自分が何を食べて満腹になったのかわからないのです。だから、なじみのあるもので、その欠落を埋めようとしたのではないでしょうか。
 食欲というのは本能だから、かなり原始的、というか根源的な意識なのだと思います。だから、それを充足させるものは単純なものでなければならないのかもしれません。肉食べて満腹になった、とか、とびきりおいしい魚を食べた、とか、野菜をたらふく食べた、とか。心象風景ではお腹いっぱいにはならない
 これは決してアコルドゥの料理を批判しているのではありません。ただ、自分の作るもの、料理人として目指す場所が違うということなのです。
 このごろ、やっと自分の方向が見えてきたような気がします。それは、今までの仕事を現代風に再構築することです。そうすることで、より深い満足感を導きだしたい。そのために、最新のテクニックを学ぶ。
 苦手な分野にまで割く時間はありません。むしろ、得意分野を前面に押し出すべきでしょう。後ろを振り返ると、膨大な自分史があります。だから、ネタにこまることはありません。それらをブラッシュアップして時代に切り込むべきでしょう。
 毎日、自己記録を更新すること。毎日、これまでで最高の仕事をすること。
 山に登る以上は、より高い山に登りたい。走る以上は、より速く走りたい。年を経たならば年を経たなりに、より輝く料理を生み出したい。
 単純な理屈です。ぼくはどこにもない、でも、どこよりもおいしい料理を作りたい
 こころに嵐を抱え続けることは、とても苦しい。でも、それが過ぎ去ったあとには真っ青な空が広がっていることでしょう。ぼくはそれが見たいと思います。
 今回も、アコルドゥから多くを教えてもらいました。彼のお店こそ、星を取るべきだと思います。ミシュラン審査員諸氏、活目せよ!
 
 
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by chefmessage | 2011-08-13 10:40
 20年近く営業していた豊中のお店を閉め、この福島に移転してきて、もうすぐ二年になります。オープンしたての頃に、かつてフレンチの名店と謳われた神戸のジャン・ムーランのオーナーシェフだった美木 剛さんがお見えになって、「あなた、よくやるねえ。」と仰いました。美木さんが引退なさったのが確か53歳のときだったから、55歳で、新しい場所でお店をやろうとしているぼくが随分無謀にみえたのでしょう。50歳過ぎたら、フランス料理なんてできっこない、そう断言されたのですが、それから二年たって、それでもぼくは毎日、料理を作り続けています。
 去年の1周年記念のコース料理は、新しい境地を切り開くつもりで冒険させてもらいました。いろんなウェブサイトなどで、「昔、有名だった人」的な書き込みをされて、オレは声変わりしたフィンガーファイブか?(古い!)、すっかり太っておばさんになったリンリンランランか?(覚えている人、古い!)と腹立たしく思っていたので、その反動があったのだと思います。それから1年。狂乱怒涛の試行錯誤を経て、やっと落ち着いてきたような気がします。
 結局、自分のなかで残ったものは、かつての自分の延長上のものでしかありません。すなわち、これまでの料理をさらによいものにするためのテクニック、あるいはメソッドだけが残ったということです。でも、その結果、自分の料理がより自分らしくなったと思います。ミシュランも食べログも気にしなくていい。ただ、自分がよいと思うものを全力でやり続ければいい、そう思えるようになってきました。なにより、これまでで最高の仕事をなしつつある、その手ごたえが大切なのではないか、と思います。
 去年の1周年記念のフェアは、本人たちが驚くほどの盛況でした。今年もそうなるかどうかはわかりませんが、去年来られた方は、ぜひまたお越しください。去年より今年のほうが絶対によい、そんでもって、信じられないほどお得です。そうわたくしは断言いたします
 料理の内容をご説明いたします。ただし、これはあくまで今現在の予定で、当日になってガラっと変更している場合もあります。その点は、ご留意ください。
 まず、前菜は3品です。
  
一つ目、
Merci! イチジクのキャラメリゼと生ハム、紫のサラダ
料理名の前にあるのは、その料理のタイトルです。紫はうちのマダムが一番好きな色です。スペインの三ツ星サン・パウのカルメ女史が、人生で一番のラッキーは主人と出会えたこと、と言ってましたが、ぼくも同じ気持ちです。彼女が支えてくれているから、今のぼくがあります。そして子供たち、店のスタッフ、もちろんぼくのお店に来てくださるお客さま。感謝の気持ちをこめての1品目です。料理を構成する食材はいたってオーソドックスですが、とにかく美しい一皿にしたいと思っています。
 
二つ目
Hommage  フォアグラのグリエとフレンチトースト
 フォアグラを蜂蜜でマリネしてからグリエする、この料理法で今までずっとやってきました。これからも変えないだろうと思います。これはシェ・ワダにいた24年前、和田信平氏から教わりました。彼の料理に対するぼくの敬意は失われることはありません。シナモン風味のフレンチトーストとマスカルポーネチーズを添えて。ミチノ、定番中の定番です
 三つ目
   Sympathie  サーモンのタルタル、トマトとシャンパンのエスプーマ
 一時、現代スペイン料理に傾倒しました。あれやこれや朝から晩まで考え、試しました。マダムに、真面目に自分の仕事しなさい、としかられるほど。新しいものをつくりだそうとするエネルギーがすばらしいと思えました。このごろはその熱狂も冷めてきましたが、いくつかの要素は残っています。それは多分、消えないでしょう。この料理は、そういう意味ではハイブリッドですが、自分の金字塔になるような気がします。
 そして、魚料理。
   Aller   シリコンボックスで蒸した魚と夏野菜
 はやりの調理器具を使います。見ようによっては家庭料理の延長ですが、これは非常に優れものです。昔、ベルナール ロワゾーのお店で働き始めたとき、厨房に山のようなテフロンのフライパンがあって驚きました。ぼくたちの感覚では、それは家庭で主婦が使うものだったから。でも、便利なものに素人もプロもないと思います。要は使い方なのです。さすが、と思っていただきましょう。イタリアの魚醤コラトゥーラとレモン風味で。
この後、マダムのデザート二品、お茶菓子と飲み物と続いて一応、ひとつのコースとなります。その構成とお値段(¥5,250税込み)は去年と同じです。でも、ぼく自身としては次の肉料理で完結すると考えています。これには追加料金が必要になりますが、本音を言うと、皆さんに召し上がっていただきたい。
 肉料理(¥2,625円 追加)
 et retour 子牛の腎臓を詰めた子羊の腿肉、ベーコンとにんにく風味の赤ワインソース

 近頃では、まず、召し上がれない食材をお客様に伺ってからコースの料理を決める、という慣習が定着してきたようです。これはアレルギーの問題があるからです。でもそれが拡大解釈されて、嫌いな食材をすべて仰るかたがおられます。とくに当日になって言われると、どう対処すればいいのかわからなくて、本当に困ることがあります。ぼくは思うのですが、せっかくレストランにお越しになったのですから、食わず嫌いはもったいないのではないでしょうか。そんな気持ちもあって、今回の肉料理はけっこうマニアックな代物にしました。でも、これがフランス料理です。フランス料理を生業とする者が心に描く桃源郷がそこにあります。この料理をおいしく作ることができれば一人前、そう思って挑戦してみます。
 Aller et retour、これはひとつで、往復、という意味です。列車の切符を買うときに使ったりします。魚料理はコンテンポラリーで、未来を感じさせるのですが、でも、戻るのは懐かしいあの肉料理、という思いを込めました。
 で、デザートですが、これはまだ未定。でも、なんだか気合入っているみたいです。あんまり考え込まないように、と助言したら、何言ってんの、お客様はわたしのデザートを楽しみにして来られるんだから、という返事。確かにこの頃は、ぼくの料理よりほめられることが多いような気がします。でも、いいことだなあ、と思います。ぼく以上に一所懸命生きているパートナーを見ていると、ぼくも負けてはいられません。だから今回は、同業の皆さんにもDM出そうと考えています。現役を長くやり続けている人間の底力を、しっかりとお見せしてやるぜ。
 二周年記念メニュー、8月30日から9月30日まで。ご予約はお早めに。
 



       
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by chefmessage | 2011-08-05 23:19