ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


by chefmessage
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

<   2011年 12月 ( 1 )   > この月の画像一覧

ジャンポールのガレット

JR甲子園口の駅前商店街を南下し、国道2号線に出るひとつ手前を右に曲がると、ジャンポールのレストランがあります。なんだか古びて雰囲気のあるレンガ作りの一軒家で、なかではお腹の出たジャンポールが、チーズたっぷりのそば粉のガレットを焼いています。ちょっとおとぎ話の世界みたいで、思わず微笑んでしまいます。
 ジャンポールはもともとシャルキュティエールで有名でした。シャルキュティエールというのは豚肉を加工したお惣菜、パテとかソーセージとかを扱うお店のことです。ぼくも料理用のベーコンはいつもジャンポールのものを使っていました。塩がしっかり効いていて、燻製も強い。ポタージュなんかに加えると、味がぐっと深くなります。
 そのジャンポールが先日、日本人の奥様と食事に来てくれました。「すごく手間がかかっているね。」、「発想が面白い。」、「ほんとにどれもおいしい、ありがとう、ありがとう。」。楽しみながら食べてくれます。だから、作っているこちらまで楽しくなってきます。
 食後に色んな話をしました。14歳からシャルキュティエールをやってきたけど、60歳になったから、レストランがしたくなったんだ、とジャンポールは言います。奥様が、シャルキュティエールのほうが経済的には楽なんだけど、彼がもういやだって言うもんだから、と苦笑されます。工場で製品を作っても、お客さんの顔が見えない、それがジャンポールには不満だったらしい。だから、工場を大手のお惣菜業者に譲渡して、自分はレストランをやったんだ、と言います。
 職人というものはそういうものかもしれないな、とぼくは思います。ビジネスならば、拡大が至上命令です。そのためには自分が手を下していては間に合わない。人を雇い、工場と販路を拡げ、より多くの儲けを出そうとする。でも、職人はあくまで自分自身が手をかけることに拘ります。自分が作ったもので人を喜ばせようとする。
 前に書いたジュエンヌの大川センパイ、そしてジャンポール、共通するのは、その職人魂でしょう。お客さんの喜ぶ顔が見たいから。言い換えれば、自分が全責任を負って、人とよい関わりをもとうとすること。そのために全力を尽くすこと。
 仕事、辛いね、と62歳になったジャンポールはいいました。でも、もうやめたいとは決していいません。すべてはタイミングなんだと彼は言います。同じレシピで作っても、ぼくのガレットは一番おいしい。それはおいしいタイミングをぼくが知っているから。そこには、14歳からずっと同じ仕事をやってきた人間の、ゆるぎない自身があります。だから、しんどくても彼はやめようとしないのではないか。
 自分には自信を持ってできる仕事があるから、まだまだ人の役にたてるから、彼はやめようとしないのではないか。
 それは義務などではない彼の優しさ、人間性だと思います。そして、そういう生き方をすることが彼の一番やりたいことであるとするなら。
 自分もそうでありたい。

 「またガレット、食べにきてね。」。帰り間際に、握手しながらぼくにそう言った彼の笑顔はとってもチャーミングでした。実はぼくもこの頃は、仕事がつらいと感じることがあるので、そんなときにはジャンポールの焼いたガレット、食べにいこうと思います。
 
 
[PR]
by chefmessage | 2011-12-14 13:46