ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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旭川滞在2日目の釣りは、残念ながら良い結果を出すことができませんでした。ガイド役の嵯城くんが最後に案内してくれたとっておきのポイントでは、日暮れ前の水面に飛来する羽虫をライズして食べる虹鱒を、なんとかゲットしようと奮戦したのですがタイムアウト。羆目撃で嵯城くんが炸裂させた爆竹の音を聞いて、大慌てで車に乗り込み帰途につきました。旭川に戻って、河原くんがいつもお世話になっている「こばちゃん寿司」で、反省会。来年は必ず、と固く誓い合って解散。
 そして次の日は、かねてより計画していた「メランジェ」でのミチノフェアです。
 これは、営業を休んで釣りに付き合ってもらうお礼、ということでぼくが提案したのですが、河原くん経由のフェイスブックでお知り合いになった旭川の方たちの要望もあって実施することになりました。
 当初は「メランジェ」常連様対象ということで、ぼくも気軽に考えていたのですが、口コミだけで予約が殺到。6時と9時の二部制にしても入りきれないという連絡を受けて、これは気合入れてかからないといけない、と考えを改めました。手抜きは河原くんの面目にかかわります。それでは師匠として申し訳ない。
 オードブル3品とメインの肉料理をぼくが担当し、魚料理とデザートは店主の河原くんに任せることにしました。全品ぼくがやってもよかったのですが、これまでの経験上、何品かはそのお店の味にしないと、常連のお客様に物足りなさが残ることを知っていたので、そのように分担することにしたのです。
 事前に何度かメニューの打ち合わせをし、足りない調理器具と食材はこちらから送る手はずをととのえました。今回は、新作は1品のみ。あとは必殺技で撃沈、という作戦です。
 朝から真面目に仕込みをし、万全の構えで臨みました。
 そして午後6時。最初のお客様登場。旭川の郊外で農業を営む野村さん。ぼくのリクエストに応えて、トレードマークのトマト帽をかぶっての来店です。でも顔を見ると汗まみれ。「野村さん、ありがとう。もう帽子、脱いでもらっていいよ。」と言ったのですが、「イヤ、最後までこれで通します。」と言い張ります。いや、ほんとにいいから、と言ってやっと脱いでもらえました。大阪の人間ならばけっこう平気なのですが、北海道の人がこういう行動を貫くのには勇気がいるのを知っているから、ほっと一安心。でも、野村さんのおかげで、余分な緊張感は少しうすれました。それから続々とお客様ご来店で、戦闘開始。
 それにしても暑い。だいたい外気温が33度ってなんやねん、北海道に来た値打ちないやないか、そうボヤきながら、しかし暑いなこの調理場、狭苦しいしカワハラでかいから邪魔やし、フォアグラうまいこと焼けへんし、そもそも休みやのになんで仕事せなあかんねん、と、ぼくはイライラ、爆発寸前。で、ふと顔を上げると、お客様全員とてもいい顔して食事しておられる。あ、よかった。河原くんのパートナー、ムツミさんが「シェフ、すっごく受けてます。」と報告してくれます。「ま、オレ様の実力やね。」とか言いながら、内心すごくいい気分です。
 そんな調子で二回戦なんとか終了。美人と記念撮影し、常連さんと握手し、ほめられ、尊敬のまなざしで見られ、笑い、笑わせ。
 でも、このフェアの大成功は、ほんとうはぼくの力ではありません。これは河原くんの18年におよぶ努力の結果だと思うのです。彼が、この旭川で頑張って、根気強く支持者を増やしてきたから、彼が師匠と呼ぶぼくの料理が受け入れられたのです。ぼくはそのことがうれしかった。
 ぼくが旭川にいたのは、もう24年も前のことで、それもほんの1年いただけにすぎません。でも、そのときぼくが蒔いたのであろう小さな種が、今こうして花咲いている。自分のつたない人生が、それでも無駄ではないと教えてくれているような気がして、むしろぼくは河原くんと、彼を支持する人たちに感謝の思いでいっぱいでした。

 打ち上げは、前夜と同じ「こばちゃん寿司」。店主のこばちゃん67歳は、旭川の繁華街さんろく(3条6丁目)の生き字引で、河原くんが尊敬してやまない人物なのですが、お話しているとほんとに面白い。やさしい口調で、でも時に辛らつで、根は熱血漢だとお見受けしたのですが、帰り際に、ぼくにこう言ってくれました。河原くんが、自分が旭川でやっていけてるのはミチノシェフのおかげだ、と話していたのを聞いたからでしょう。
 「旭川に新しい風、運んでくれてありがとね。」。
   う、泣かせるぜ、こばちゃん。
 来年、また来るからね、それまで元気でね、ぼくはそう言いたかったけれど、言葉につまってしまいました。不意打ちやったもんなあ。
 ホテルに戻って、明日帰るのいややな、と思いました。また、苦しい戦いの日々が始まる。でも、今回は随分、追い風をもらいました。だから、それをいっぱい帆に受けて、行けるところまで行ってみよう。そうして、また旭川に来ることができたなら、そのときは一年分のオレ様の成長をお見せしよう、このオッサンはまだ成長しとるんかい、そう言わせてやろう、と、思ったのでした。
 「メランジェ」の壁にぼくの落書きがあります。思いついて書いてきました。
 All for one,One for all.(すべてはひとつのために、ひとつはすべてのために。)
     明日も晴れるといいな。
 
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by chefmessage | 2012-09-05 18:13

戦士の休息 釣行編

今年のぼくの夏休みは、北海道の河原くんのところに行こうと決めていました。お盆明けの4日間、うち一日は釣り、もう一日は河原くんのお店「メランジェ」で料理フェアということでスケジュールを調整し、旭川到着の二日目が念願の釣りの日と決定。狙うのは日本最大の淡水魚、アイヌの人たちに「川の神様」と呼ばれ、また、「幻の魚」とも称されているイトウです。漢字で書くと魚偏に鬼。
 ぼくはこれまでに96センチ、74センチ、というのを釣ったことがあるのですが、聞けば、140センチのものも釣られたことがあるらしい。たかが数センチといっても、体高と重さが随分変わるので、やはり大きなものは迫力があります。いつか1メーターを越えるものが釣りたいというのは、釣り人にとっては当然の欲求でしょう。でも、これがそう簡単には釣れないのです。現に、旭川に18年もいる釣りマニアの河原くんは、いまだに一匹も釣ったことがありません。これは、彼の日ごろの行いが悪いというわけではないようです。
 ただ、今回は強力な助っ人を河原くんが見つけてくれました。嵯城くんという若いコックさんなのですが、なんとイトウ釣りの達人で、今年釣ったメーター超えのイトウはすでに7本!その嵯城くんが自らの運転でガイド役を引き受けてくれる、ということで大いに期待しての釣行です。
 夜明け前の午前4時に旭川出発。でも出発して早々に悪い知らせが。前日にかなり雨が降って、川の状態が芳しくないということです。いや、まいったな、オレ、すごい楽しみにしててんけどな、とボヤくと、嵯城くんが言いました。「いや、それならそれで釣れそうなポイントを探します。」。おお、素晴らしいガイドやないか。
 午前6時半くらいに目的地付近に到着。それから、あっちこっちのポイントを巡りました。
 嵯城くんのランドクルーザーで、道なき道を踏み越えていくのですが、彼が時々不思議なことをします。まったくの藪の中でもクラクションを鳴らすのです。それも何回も連続で。他の車とすれ違うはずもないのに何故?と問うと、彼が答えました。「羆避けです。」。そういえば彼の腰には、「アルプスの少女ハイジ」に出てくる牛の首にぶらさがっているような大きな鈴が結びつけられていて、それも同じ目的なのだそうです。人がいるよ、とクマに知らせて、クマに避けてもらうのだとか。それでも不運にも遭遇してしまったら、その時はこれしかありません、と、同じく腰には熊撃退スプレーが。それも二本。強烈なトウガラシエキスが入っているらしいのですが、実際にそのような状況でそれを取り出してクマの顔面に向かって吹きつけられる自信はぼくにはありません。まったく恐ろしい釣りやなあ、でも、もう来てるし。
 で、本流を攻め、支流に分け入り、あるいは合流点にたたずみ。でも、釣れない。増水で、絶好の釣り場に降りれない。ポイントが遠すぎて仕掛けは届かず、流れが速すぎてルアーが沈まない。あるいは濁っていて、とても釣れる状態じゃない。巨漢の河原くんは崖から滑り落ちそうになって嵯城くんに助けられ、ぼくはロッド(竿)を折って意気消沈。リールは空転し、ラインはからみ、プラグやスプーンをいくつも根がかりで失い。それでも攻めて攻めて、あきらめずに攻めて。
 夕方、さすがに疲れて、ちょっと休憩と川原に座りこみました。
 そして何故か、なんの脈絡もないのに、こんな考えが浮かんできました。そういえば、オレっていつも何かに対して戦ってきたなあ、と。そして多分、これからもずっと、息をしなくなるその瞬間までそれを続けるんだろうな、と。
 しかし、それはぼくだけではないかもしれません。姿、形は違えども、すべての人が、あるいはすべての生物が戦っているのかもしれない。この世に生を受ける、ということはそういうことなのかもしれない。
 でも今、ぼくの前に川が流れていて、緑に包まれた山があり、その上に雲、その上に空があり、ぼくの息が周りの空気と溶け合い、自分が一部に過ぎないということに思い至ったとき、ぼくのこころは軽くなり。
 「疲れましたか?」と嵯城くんが問います。「いや、これからやで。」とぼくは答えます。「それなら最後に、とっておきの虹鱒のポイントに案内します。」と彼がいいます。ああ、いい男だなあ、とぼくは思います。
 多分、とっておきのポイントも、今日のこの状況なら難しいでしょう。だけど、それでもいい。釣れなくてもかまわない。こういう休日があっただけでぼくは十分だから
 ぼくはもう一度、北海道の空を見上げて、すこしやさしい気持ちになってつぶやきます。
        本日は晴天なり。 

 
 
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by chefmessage | 2012-09-02 18:39