ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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未来の種

去年のクリスマスのことです。もう20年来のお客さまであるFさんが、中学2年生になったお嬢さんとディナーに来られました。父娘という組み合わせでは、初めてのご来店。大丈夫かな、お嬢さん緊張してないかな、というぼくの心配は杞憂で、お二人でずいぶん楽しい時間を過ごされたようです。お帰りに、ごあいさつに出ると、Fさんが、こうおっしゃいました。
 「シェフ、やっぱり親子やな、と思ったわ。シェフのフォアグラ食べたとき、娘が、なんか涙が出てきそうや、って言いよんねん。」。そういうFさんの目も、こころなしかうるんでいるような。

 うちのフォアグラはFさんの大好物です。Fさんが、郷里のご両親をぼくの店に連れてこられたきっかけも、それを食べさせたかったからだ、とお聞きした覚えがあります。そして、それ以来、お母様の好物にもなって、だからフォアグラを食べると、Fさんは、亡くなったお母様を思い出されるようです。その同じ料理を食べたお嬢さんが先のように話されたものだから、Fさんの涙腺はゆるみそうになったのでしょう。

 ぼくのフォアグラの調理法は、昔、「シェ・ワダ」で習ったものです。付け合わせやソースはいろいろと変えてきましたが、フォアグラそのものは、それ以来ずっと同じです。いい加減やめようと何度も思ってきたのですが、お客様のリクエストが絶えず、結局24年たっても変わらずメニューに載っています。でも、親子三代にわたって喜ばれてきた、という事実は、感無量というほかはありません。涙腺がゆるみそうになるのは、むしろぼくの方なのです。

 昨日、東京の「ラ・フィネス」というフランス料理店でフェアをやりました。この店のオーナーシェフは、ぼくのブログでおなじみの「神の子」杉本敬三くんです。去年の末から二人で話し合って、開催にこぎつけたのですが、肝心のぼくの料理がまったく決まりませんでした。ぼくがメインを担当することになっていたのですが、まず食材が決まらない。というのも、これは、と思うものはすでに敬三が全部使ってしまっているのです。迷いに迷いました。でも、正直なところは、ぼくは臆していたのです。杉本敬三、今や若手では実力ナンバーワンと目されています。事実、マスコミへの露出は半端ではない。料理関係の本、総ナメといった趣です。業界の評価、注目度もかなり高い。参ったなあ、というのが本音だったのです。でも、受けた以上はやらねばなりません。オヤジがんばれ、と自分に言い聞かせる日々でした。
 結局、開催3日前にやっと決まりました。愛媛の猟師にダメモトでお願いしていたものが届いたのです。なんと、これが素晴らしいものでした。メスの子イノシシ。肉質、脂ののり、熟成具合、すべてぼくがこれまで見てきたものの中ではダントツ一位。その日のうちに部位別に4品の料理を考えました。どれにしようか。結局、決めかねて、全部いったれ、と。メインは堂々、ふた皿構成になりました。大好評のうちにフェア終了。帰りに敬三が言いました。「シェフ、来たときより若返ったみたいですよ。」。

 自分の店を持って24年。時間は、あっという間に過ぎていきました。小さかった3人の子供たちはずいぶん成長しました。フランス料理大好きだった高校生の敬三は、いまや新進気鋭のオーナーシェフです。年取ったな、と思います。現役生命はあと何年か。もっとほかの人生もあったのではないか、とさびしく思うときもあります。
 ところがどっこい。
 今年の4月から、新しい仕事がひとつ加わることが決まりました。JAならけんが経営母体の130席のカジュアルレストランと24席のフレンチの総料理長。大役です。自分の店をやりながら、なので、かなりの仕事量になると思いますが、最後の勝負に挑むつもりです。

 親子三代にわたって愛されたぼくの料理を、もっと広めたい。未来の種をまいておきたい。そして、自分の力の最後の一滴まで絞りつくしたい。
 こういう人生も悪くない、と思います。そして、そう思えることができるのは、ぼくの料理を喜び、愛する方々がいてくださったからでしょう。

 ミチノ、がんばります。応援、してください。
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by chefmessage | 2013-01-24 18:24