ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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ダンダさんのこと

d0163718_18313883.jpg ライターの団田芳子さんに初めて記事を書いてもらったのは、もう12~3年くらい前のことでしょうか。「あまから手帖」の別冊で、シェフとその奥さん、みたいな特集があって、ぼくとうちのマダムの担当が彼女でした。
 取材そのものにはまったく問題はなかったのですが、掲載写真について、当時の「あまから」編集部のほうからクレームがつきました。その写真は、当時のぼくたちの住まいの居間で撮ったものだったのですが、前面に、紺のサテンの中国服を着たぼくがソファに座って靴を磨いています。ぼくの足元には靴が数えきれないほど並んでいる。そしてそのうしろに、うちのマダムがインドのサリーを着て、インド舞踊のポーズで微笑んでいる。その写真が「あり得ない」、「こんな夫婦がいるわけがない」と判断されたのです。そして、いたって無難なツーショットに差し替えたい、と。それを聞いて、ぼくは「あまから」編集部に電話をいれて、こう言いました。「あの写真にまったく嘘はありません。だから、あのままでお願いします。」。
 実際、ぼくがその時着ていた中国服は、東京のユナイテッド・アローズが限定販売していた上海灘というブランドのもので、当時のぼくのお気に入りだったし、靴はすべて自前のものでした。そしてマダムは、インドに留学までしたインド舞踊家だったのです。他人がどう判断しようが、それがその頃のぼく達の日常でした。
 写真はそのように一見、奇矯なものでしたが、文章はそれとはまったく裏腹な内容でした。曰く、このシェフは仕事が終わると、眠っている家族を起こさないようにそっと帰宅して、子供の残り物のハンバーグを電チンして食べるのを楽しみにしている云々・・・。
 流れるような筆致で、ユーモアを散りばめながら、でも、ぼくの伝えたかったことをちゃんと表現してくれていることに、ぼくは感動しました。この人、文章上手やなあ。
 実は、そのようなことは滅多にないことなのです。なんかちがうよな、ほとんどの場合、ぼくはそう思っていたから。歯がゆい思いで、送られてきた掲載誌を閉じて、それっきり、ということが大半だったから。
 だから、ぼくはダンダさんに電話してこう言いました。「素敵な文章ありがとう。めっちゃうれしかったわ。」。
 その後のダンダさんの活躍ぶりは、ぼくの想像を超えるものでした。そして、井上理津子さんと共著で出版した「関西名物」「大阪名物」で、不動の地位に。今では、錚々たるメンバーで構成されるファンクラブまで出来るほど、めでたしめでたし、で終われば罪のない話なのですが・・・。
 なんと、来年早々、ダンダファンクラブの新年会がぼくの店で催されることになったのです。それも、すでにキャンセル待ちまで出ているという。

 なにしろ、いわゆる「食にうるさい」メンバーの集まりです。それに、ダンダさんは折にふれ、ぼくの料理を食べてこられて、ぼくの手の内はほぼ把握しておられます。さあ、どうするか。

 年明けると、オレももう還暦やしなあ、とふと弱気になる今日この頃です。やっぱり無難な線でいっとくべきかなあ。でも、心が騒ぎます。なにやら声も聞こえてくるような。「ガツンといっとかんかい。」。

 普段、料理を考えるときは、段取りと保存を重視します。どれだけ準備しておけるか、と、どれだけ鮮度を保てるか。だから、料理は決して自由ではありません。でも、料理人はいつでも夢想しています。何も制約がなかったら、どこまでできるのか。
 やってみようと思います。最低限の仕込み、そして一回で使い切りの高価な食材。
 たぶん、その仕事が、今後のぼくの方向を決めてくれるような気がします。残念ながら、よくもってあと10年でぼくの力は尽きるでしょう。末の娘が大人になるまでの期間と重なっているのは、むしろ僥倖と捉えるべきでしょう。ぼくは自分の仕事を総括しなければならない、でも、ぼくは死ぬまで前衛の料理人だから、立ち止まってはいられない。

 見とれよ、とぼくは思います。そして、記憶して、いつか「ミチノさんっていう料理人がおってな。」とダンダさんに語ってほしい。だから・・・。
 ぼくはドキドキしながら、実はその日を楽しみにしています。そして、せっせとネタを書きとめています。そのネタが花を咲かせて、ひとりでも多くのひとに楽しんでもらえたら、ぼくはそれだけでいいと思うんですが、折角だから自分へのご褒美に、靴もう一足買っていいかどうか、ダンダさん、うちのマダムに聞いてくれる?
 
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by chefmessage | 2013-12-11 18:31