ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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 どうしてこんなことになったのか、よくわからなかったのです。
発端は1年くらい前。
神戸のルセットというレストランで、東京の杉本敬三(ラ・フィネス オーナーシェフ)と彼の義理のお父さんとぼくの3人で食事をする機会がありました。食後、ルセットの依田シェフを交えて雑談していたとき、敬三と依田くんが、ぼくの還暦パーティーをしようと言いはじめたのです。
 ぼくは、自分のために人の手を煩わせることが基本的に好きではありません。それに、できれば誕生日はそっとしておいてほしい。というのも、ぼくには二つ違いの弟がいて、彼とは誕生日が同じで、彼が35歳、ぼくが37歳になったその当日に彼が急死するということがあったから、それ以来、ぼくは自分の誕生日は速やかに過ぎていってほしいと願うようになったのです。だから、ぼくはあまり乗り気ではありませんでした。
 それに、実際問題として営業を休まないといけない店もあるだろうし、義理で参加してもらうというのも好ましくないから、そんな理由を述べ立てて、ぼくは彼等の申し出を頑なに固辞しました。
 でも、本音を言うなら、人が集まらないのではないか、と危惧したのです。一生懸命彼等が動いてくれても、実際に人が集まらなければ彼等をがっかりさせてしまう。それになにより、ぼく自身が寂しくなってしまう。
 何度も書きましたが、ぼくは一世を風靡した人間です。その時代のことを覚えていて、ぼくを尊敬してくれている料理人もいないことはない。でも、ぼくはこころのどこかで、自分を過去の人だと思ってここ何年かを生きてきました。
 自分の役割は終わった、もう自分に居場所はない、そう思わざるを得ない状況に陥って、本当に辛かった。でも、このままでは死んでも死に切れないと思ったから、少しずつ少しずつ自分の仕事のブラッシュアップをはかり、やっと出口が見えてきた、と思っていた矢先なのです。ここで再び辛い現実にさらされてしまったら、ぼくはもう立ち上がれないのではないか。そんな気配を察してか、彼等からその話題が出なくなって、ホッとしていたら、それから数ヵ月後。
 依田シェフからメールが届きました。道野シェフ還暦大祝賀会は3月16日に決定しましたので、よろしく云々。
 場所、時間、おおまかなプランが出来上がっていました。参加者の顔ぶれも。もうやるしかないな、とぼくも腹をくくりました。そして、いろんな方に声をかけ始めて。
 結局、当日料理を持ち込んでくれることになったのは。

ルセット(仏、神戸)依田英敏
ラ・フィネス(仏、東京・新橋)杉本敬三
ラッフィナート(伊、芦屋)小阪歩武
ダ・ジュンジーノ(伊、大阪)八島淳次
テツヤ・イシハラ(仏、大阪)石原鉄哉
アルテ シンポジオ(伊、夙川)荻堂桂輔、紀里
レストラン ヨコオ(洋、大阪)横尾淳
プログレ ヨコヤマ(伊、大阪)横山淳
ビストロ リッペ(仏 豊中)中尾匡宏
ドゥ アッシュ(仏、大阪)中田貴紀
クードポール(仏、大阪)田中悦男
ラ・ブリーズ(仏、大阪)北川達雄
パトゥ(仏、神戸)山口義照
ギュール ル モンテ(仏、神戸)赤田裕弘
ラ・ルッチョラ(伊、大阪)鈴木浩治
迎賓館(仏、吹田)中村実
アンティーク(仏、神戸)大町誠
ポルト バル ノット(仏、神戸)江見常幸
メランジェ(仏、北海道旭川)河原正典
オマージュ(仏、東京・浅草)荒井昇

バースデイケーキ提供
なかたに亭(大阪)中谷哲哉

パン提供
サマーシュ(神戸)西川功晃
スタイルブレッド(群馬)橋本拓哉

焼き菓子提供
ビレロイ&ボッホ 雲切みどり

トマト提供
脇田章吉良

キムチ提供
龍岡商店 龍岡弘満

サーヴィス補助
オルフェ(仏、神戸)三木丸

調理補助
ル・ベナトン(仏、夙川)高谷慶
    【順不同】


そして、チェロ奏者の庄司拓さんと、ぼくの同級生の二階堂公雄くん率いるジャズトリオが演奏を披露してくれることになって。

 ぼくは途中でおそろしくなってきました。ゲストも100名を超えそうです。
なぜみんな、そこまでやってくれるのか。イタリア勢は、八島親分が若手に檄を飛ばしています。フランス勢は、当日多忙で出席できない人たちも料理を作って出してくれるという。もうやめてくれ、オレはそこまでしてくれるほど立派な人間じゃない。どうお返しすればいいのかもわからないから、もうやめてくれ。何度も何度もこころで叫びました。
 でも、勢いがついて止まらない。日が近づくにつれてみんなのテンションがどんどん上っていくのがひしひしと感じられて。
 そして、その日がやってきました。
 何人もの錚々たる料理人たちが一斉に動いています。その光景は力強く圧巻です。現場のみなさんも気持ちよく協力してくれている。石原くんが、荻堂くんが、横山くんが、大町くんが、生まれたばかりの赤ちゃんを寝かしつけた荻堂マダムまでもが料理を盛っている。その合間を、調整役の小阪くんが走り回って。
それはまるで、オーケストラの音あわせみたいに気迫に満ちている。エネルギーが大気に充満している。
 やがて、バンケットルームに出来上がった料理が並びはじめ、ゲストが次々到着し、大久保かれんさんがマイクを握り、二階堂くんのベースがBGMを奏で・・・。
 料理をサーブする料理人も、それを食べるゲストのみなさんも笑顔です。驚きの声がささやきから、チェロやピアノやサックスやベースの音を巻き込みながら大きなうねりとなって会場に満ち。
 最後にぼくがご挨拶するころには、場の雰囲気がひとつの方向に収斂され、拍手はなりやまず、全員の気持ちがひとつになって、まるで喜びのエネルギーが川に向かって開け放たれたテラスから、うねりながら天へと登っていくようでした。
 おい、そこから見えてるか?35歳のままの弟に60歳になったぼくは語りかけます。
 会ったときの話題がひとつ増えたな。

 人を喜ばせることに精魂かたむける、料理人とはそういう人種です。なんと純粋なやつらなんだろうと思います。その料理人魂が今回のパーティで、ぼくという支点を得て存分に発揮され、ゲストのみなさんに伝わり、それがまた一人ひとりの料理人に戻され、それぞれに勇気の火種をともした、そう思います。
 天国の扉を開く鍵は、実はみんながその手に握っている。それを知ることができたから、きっとみんなあんなにうれしそうな顔をしていたんだ。

 還暦とは干支が一巡して、振り出しにもどるお祝い、とか。だったら、
オレ、もう一花咲かせることできるよな、とまたぼくは語りかけます。

 昨夜、お集まりいただいた料理人のみなさん、忙しい合間をぬって料理を作って届けてくれた仲間達、そしてゲストのみなさん、本当にありがとうございました。また会いましょう。
 
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by chefmessage | 2014-03-18 14:12