ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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 北海道シリーズ第二弾は、恒例の釣り日誌です。

 前述のメランジェ20周年パーティーのあと、二次会にも誘われて、そこで午前1時半までにぎやかに過ごし、いったんホテルに戻って用意して、玄関に降りて迎えの車を待ちました。5月も終わろうというのに、夜中の旭川、吐く息が白いです。フリースのジャケットを荷物に入れてくるべきだった、と後悔していると、やってきました怪魚ハンターS君の車。今回、河原君は続く三次会出席のために参加できず、彼と二人の釣行。
 このS君、ぼくの知る限りでは北海道で1番の釣師、それもイトウ専門。これまでの釣果も半端ではありません。その結果、例えは悪いのですが、指名手配の犯人みたいに追いかけられています。彼の車がどこに止まっているかでポイントを探ろうとする釣師がたくさんいるという話。
 そもそも釣師にとって釣りのポイントは秘中の秘、ましてや相手は幻の魚イトウです。知りたいという気持ちはわからないでもありません。本来なら、一年に一度、それも一日しか釣りにこれないぼくがそれを知る手立てはないのですが、このS君がぼくと同業者で、なおかつ河原君に私淑しているということで、その手の内を明かしてくれるという僥倖に恵まれたのです。

 今日は残念ながら大潮の潮どまりで、イトウ釣りには最悪です、と開口一番のご託宣。この時期、大物は餌が豊富な河口付近にいるらしいのですが、大潮のときは海水が川に上ってくるので、それを嫌がって魚は散るらしい。ましてや、潮どまりになると魚の活性が低下するので、餌を追っかけないのだとか。いきなり、がっくり。そのうえ、ともうひとつダメ押し。いつもの川は濁って釣りになりません。なんでやねん、何日も雨、降ってないやん、と言うと、今は田植えの時期で、水田の水が大量に流れこむため川が濁るらしい。いちいちごもっとも。やっぱり優れた技には科学的根拠とデータがあるんだ、と納得はするけれども、なにやら腹立たしい。
 「でも、必ずどこかに魚はいますから。」という君は、やはり名人、その心意気や貴し。

 ということで、車はどんどん北へ向かって走ります。S君、しょっちゅう車を止めてはスマホを操作してうんうん言っている。色んなところの潮廻りの時間帯や、潮位、水位を調べ、自分の頭にインプットされているデータと示し合わせて、最適なポイントを探している模様。そして、よし、とばかりにまた車は走り出し。
 午前3時に暗かった空が白みはじめ、3時半には夜が明けます。同じ日本とは思えない。やがて、去年も行った第一ポイントに到着。あまりの寒さにダウンジャケットを拝借して、本日の釣り開始。でも、ねばっても、魚はいない。
 イトウ釣りの道具はすべてが大きく太いので、ほかの魚がまちがって釣れることはありません。だから、魚がいないと判断すると、早速、次のポイントへ向かいます。でも、次のポイントにはタッチの差で他の釣師が入ってしまい、断念。車に乗って、次のポイントに向かいます。そこでも、やっぱりダメ。思い切って考えを切り替えましょう、ということで、潮に影響されにくい上流へ向かう途中、だめもとでやってみますか、とS君が車を止めます。ちょっと歩きますけどいいですか。おお、普段運動不足やから望むところや、と道具かついで彼のあとを歩きます。
 打ち捨てられたサイロ?の向こうに、多分牧草地だった平野が広がっています。そして、タンポポの黄色い花が延々と、見渡すかぎり咲き乱れています。その中を歩く釣師ふたり。空は青く、雲は流れ、涼しい風が吹き抜けていきます。歩いているだけで気分がいいのですが、やがて疲れて、足取りも重くなり始めたころ、川岸の葦の切れ目に到着。そこだけがぽっかり開いているので、ポイントだとわかります。で、早速釣り再開。でも、やっぱり釣れない。キャスティングして、置き竿をして座りこみます。久しぶりに徹夜ややし、ああ、しんど。釣れへんけど、まあいいか、とウトウトしかけたら、右手に置きっ放しの竿先が右に二回、大きく引っ張られています。おっ、と思って立ち上がって竿をつかもうとしたら、ぼくよりも竿のそばにいたS君がすばやく手にして渡してくれました。それをつかんで大きくあおったとき、ガン、と逆に引っ張られ、バシャッと大きな水音がして、心臓がドキンと脈打ちます。待ち焦がれたアタリです!
 リールからラインがジージー音をたてて出ていきます。両手でこらえているぼくに代わってS君がドラグ(リールの糸の出を調節するネジ)を締めてくれます。ここであせってはいけない。イトウは口が大きいので、ラインに緩みがでると針がはずれることがあります。竿先を立てて、こらえて、巻いて。イトウが水面に顔を出して、頭を左右にふります。それどころか、巨体にもかかわらず、水面をジャンプします。さすがにサケ科だけあってなかなかのファイト、それでもこらえて巻いて、徐々に岸に寄せて。
 大きいので、抜き上げることはできません。S君がタモを入れて引っ張りあげてくれました。サイズは1メーターに
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もう少しの95センチ。記念撮影をして、川にもって下りて、タモから魚を出します。さすがにくたびれたのか、腹が上になっている。だから右手で尾の付け根を持って、左手でまっすぐになるよう魚体を支えて、時々エラに向けて水を送ってやる。待つことしばし、左手を離しても大丈夫になったら、尾をつかんでいる右手で、そっと川に押し戻す。ゆらゆらと体をゆすりながら、アイヌの人たちが川の神様と呼ぶ魚は棲家に帰っていきました。

 結局その後、二回ポイントを移りましたが、釣れたのは1匹だけ。でも、ふたりで、よかったよかった、安心した、と語り合い、ほどよい疲れのうちに納竿。河原君と打ち上げ予定の、旭川の「こばちゃん寿司」に向かって車を走らせたのでした。

 帰りの車中で、S君が夢を語ります。いつか130センチ、釣りたいです。そんなデカいのいてるん?いや、どこかにきっと140くらいのがいるはずなんです。そんなだと、40キロくらいあります。それは無理としても、せめて・・・。
 オレは、年に二回は来たいな。それで、目指すところはメーター越えやな。いや、いつか、そう、子供達が全員社会人になって、オレが自由になったら、そのときにはこころおきなく釣り三昧、でも、そのときは本当に来るのかな?
 それまで体力は持つのか、気力は保てるのか。それどころか、この命は永らえているのか、だから、
 今日一日の出来事をこころにとめて、一面のタンポポ、青い空、白い雲、吹き渡る風、そして川の神様の力強さを忘れないで、毎日を生きよう。誰にも恥じることのない歩みを続けよう。

 翌朝、ぼくはホテルを出て帰阪の途につきました。そして、夜にはもう自分の店で仕事をしていました。今回の北海道の旅は、得るものの多い2日間でした。河原君、怪魚ハンターS君、そして旭川のみなさん、ありがとうございました。次は9月に行きたいと思っています。そして、そのときには、ぼくの料理を食べていただきます。それが、これまでで最高のぼくの料理であるよう、頑張りたいと思います。また会いましょう、お元気で。
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by chefmessage | 2015-06-04 18:50