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ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


by chefmessage
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毒見

このごろ電話などでお問い合わせが多いのが、例のBSE(狂牛病-牛海綿状脳症)に、どう対処していますか、ということです。そのことについて今回は詳しくお答えします。

 まず食材については、肉類は現在、ヨ-ロッパ産のものは、ほとんど輸入がストップしています。
 かろうじてうちで使っているものとしては、鳩、ウズラ、フォアグラがフランス産です。これらには、BSEそのものが存在を確認されていません。

 その他の肉類で、使っている物としては、リ・ド・ヴォ、仔牛、仔羊、牛ロ-ス、黒豚、地鶏、がありますが、リ・ド・ヴォ、仔牛、仔羊、それからフォン・ド・ヴォに使う仔牛の骨は、すべてオ-ストラリア産のものを選んでいます。
 オ-ストラリアは、BSEとその原因となったと疑われているTSE(スクレイピ-、羊の伝染症海綿状脳症)の危険性が世界で最も低いと言われている国です。
というのは、オ-ストラリアは1966年以降オ-ストラリアと同じく、BSE・TSEの存在しないニュ-ジ-ランドの骨粉製品しか輸入しておらず、現在では法律によって、その骨粉すら使用してはいけない、すなわち反芻動物(はんすうどうぶつ)に肉・骨粉飼料を与えることを全面禁止している国であるからです。
 また、国として定期的かつ系統的に病害監視プログラムを実施し、屠殺現場には獣医師を配置させるということまでしています。ですから、少なくとも病害に関しては問題ないのですが、ただ私としては、おいしくなくては許せないので、まず、仔牛・仔羊はともに生後6ヶ月までのものとし、なおかつ母乳と牧草しか口にしていないものと限定して、いろいろなところからサンプルを取り寄せました。その結果、いちばん自分の舌にあったものを選んで使っています。
これは、リ・ド・ヴォも、フォン・ド・ヴォに使う仔牛の骨も同じです。
 まず、ミチノがお毒味してさしあげました。
 
 でもそれでも、どうしても、フォン・ド・ヴォが気になるという方は、おっしゃってください。
 じつは、そのうちフォン・ド・ヴォもくどいと言われる時代が来るのではないかと考えていたミチノは、フォン・ド・ヴォを全く使わない料理のレシピをしっかりもっているので、いくらでも対応できますから。
 
 さて、後は国内産のお肉たちですが、牛ロ-スは松阪のものを使っています。これは一般の飼育とは方法を異にしており、餌は完全に穀物と牧草です。肉・骨粉飼料があるのも知らなかったという人達がいるくらい、伝統的に植物飼料しか、与えていません。そのうえ、正肉なので問題はないと思います。
 つぎに、黒豚ですが、これは契約している飼育場がはっきりしている安全な無菌豚しか買っていません。使っているのはフィレのみです。また地鶏は日向産の赤鶏で、半ば放し飼い、餌は穀類のみです。
 そして最後にゼラチン。そんなに沢山使う物ではありませんが、心配な方もおられるでしょう。昔は、鯨の骨から作っていたのですが、現在うちで使っているのは豚の骨が原料です。これも問題は発生していません。BSE・TSEの疑惑の範疇外です。

 さあ、これでご理解いただけたでしょうか。私の仕事は人を幸せにすることです。安全で美味しい食材を厳選するのは当然です。ただ、現実としては、食べ物は二極化しつつあります。

 一つは経済的な効率を優先した食べ物です。いかに無駄をなくし、短期間で実利を得るか。そのために、オ-トメ-ションとマニュアルの徹底化が行われています。それが、運動できないような狭い場所に閉じこめられて、昼も夜もなく、自然のサイクルを無視した栄養価の高いエサを与え続けられ、短期間で食肉にされる鶏や牛たちです。 あるいは、土に触れたことのない野菜たちです。そして、機械的に食べ物として製品化され、マニュアル化したサ-ヴィスで売られていくのです。
 そこには、働く人達の疑問を挟む余裕はありません。むしろ、それらは排除されていきます。そうでないと、単価を思い切り下げたのに、逆に利益が出るなんてことが起こるはずがないのです。そして、そのような組織の主は、こう豪語します。「人間の味覚は、5~6才までに決まる。だからファミリ-で来てくれれば、その子供たちが親になっても子供たちを連れてきてくる。それが続く限り、ファ-ストフ-ドは不滅だ!」と。
 でも、その思想と方法に対する警鐘が、今回の出来事には含まれているのではないでしょうか。
 かたや、その反動として、昔ながらの手間ひまかけて、を見直し安全で美味しい物を作ろうという人達も多く輩出してきています。
 そして、ミチノはそれらを探し求め、大切に調理し、マニュアルに陥らないサ-ヴィスで提供しようとしています。

 先日、なくなった落語家の古今亭志ん朝さんは、「落語なんてものに生涯かけるからイキなんだよ」と語っていたそうです。
 実は私も、フランス料理なんて、と心のどこかで思っています。べつに、この日本にはなくったっていいもんだ、と。
 でも、それに一所懸命なのも、志ん朝さんに見習えばイキではないか、と。そして、そのイキの中に 伝えたい、本当に大切なものがこめられているように、祈りながら、

    皆さんが来て下さるのを、
    今日もミチノは待っているのです。

 そこで朗報!
ランチがすごくかわりました。
オ-ドヴルとメインが3種類ずつから選べて、その上 値段もお得に!
いつか行ってやる、と思っている人、まずランチにきてください。
by chefmessage | 2001-10-01 22:37