のんたんのレストランデビュー
2006年 04月 18日
なのに、実際席について食事がはじまると、のんたんはパパの料理に少ししか手をつけず、パンばっかり食べているのです。聞けば、「食べたくない」と言います。自信がゆらいだパパは他の子供たちに、「おいしくないか?」と尋ねるのですが、二人は「すごくおいしい。」と答える。何故?でも、のんたんはずっとニコニコしています。なのに、デザートも食べてくれない。パパはちょっと落ち込みました。上の二人は、今度のお店はピザもパスタもあるから、新しくなってよかった、と喜んでくれました。でも、のんたんは食べてくれない。
その謎が解けたのは、シュミレーションが終わり、かたずけて帰宅し、マダムと話しあってからです。どうものんたんは舞い上がってしまったようだ、というのが彼女の見解でした。うれしすぎてむねが一杯になったのではないか、だから食欲がなくなってしまったのではないだろうか。なるほど。
というわけで、のんたんのレストランデビューは僕にとってはあまり芳しいものではなかったのですが、でもこう思いたいのです。多分彼女は、5才のこの日のこといつまでも覚えていてくれるのではないか。
東京のお客さんで、Mさんという通訳のお仕事しておられる女性と食後の雑談をしていたとき、彼女が、5才で料亭デビューした思い出話をしてくれました。ご両親の馴染みのお店に連れて行ってもらったのだけど、量も大人と一緒だったので全部食べられなかった。すると、両親だけでなく、その料亭のご主人までが出てきて彼女を諭したそうです。それは料理人が一生懸命作ったもんだから、残してはいけないよ、と。それ以来、彼女は食べ物を大事にするようになった、というのです。その日のことは今でも大切な思い出です、と彼女は言っていました。
僕は、自分がお子様ランチやディナーを作る日が来るなんて、夢にも思っていませんでした。でも、それは子供を、大人が連れてくる厄介な存在、と考えていたからです。でも、彼らもいつか大人になります。将来のことを考えると、今彼らに知ってもらわなければならないのではないか、と自分の子供たちを見ていて思いました。おいしいものを食べる喜び、こころの豊かさ。「おいしいものを食べさせていれば子供はキレない。」という意見を聞いたことがあります。これも極論だと思うけど、満更ウソでもないような気もします。
だから、僕が新しい店レザール・サンテでお出しするお子様ランチ・ディナーは、一皿にデザートまでのっている安易なものではありません。あんたたちはこれでも食べてなさい、そう言って自分たちのお喋りにばかり熱中する母親があてがうようなものではない、ちゃんとコースに仕立てたものです。そのことで、プロの仕事に対する敬意も養うことができれば、というのはあつかましすぎるでしょうか。お母さんにはお手間をお掛けしますが、お子さんのお世話もお願いいたします。そうすることで、子供の思い出とともにお母さんの思い出も増えるだろうから。
そういえば、神戸の加古君(エスパスのオーナーシェフ)の奥さんは、今月が出産予定日だそうです。いつか彼らの子供が、今ののんたんと同じ5才になったとき、親子でご来店してくれたら素敵だなあ、と思います。多分、僕も今年の2月25日のことを思い出して、初心に帰ることができると思うから。加古君、お互い頑張って、子供育てていこうな。
レザール・サンテ! オーナーシェフ 道野 正