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ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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夢の数

 9月29日の土曜日が運動会だったので、全員同じ小学校に通うウチの子供たち3人は、10月1日の月曜が代休でした。普段は定休日の月曜日しか休みが取れず、仕事優先で参観日にも運動会にも行ってやれない僕は、たまたま休みが重なったということで家族サービスでもしようと思い、子供たちにリクエストを聞きました。「何所に行きたい?」。全員が声を揃えて答えました。「釣りに連れていってほしい。」。

 マダムに相談したら、その日は神戸観光の日とかで、神戸市内のいろんな施設の入園料がタダになる(なぜか、彼女はそういう情報に詳しい!)から、海釣り公園がいいんじゃないか、と言います。早速ネットで調べたら、おお、その通り。駐車料金しか必要ない。よし、ということで、二つあるうちの一つ、平磯海釣り公園に行くことになりました。
 でも、海釣り公園ってあんまり釣れないんだな。まあ、アジくらいならなんとかなるか、竿は、仕掛けは、と、ちょっと面倒だけど、たまには家族にいいとこ見せようと意気込んでいたわけです。

 そのことを、わが海釣りの師匠カトーさんになにかのときに話したら、カトーさんが、こう言いました。ぼくのボートに招待しましょう。海釣り公園は釣れないから、ぼくが子どもさん達におもいっきり釣らせてあげます。
 それは素晴らしい提案なんだけど、即答はしかねました。というのも、子供達にその釣行はかなりハードだと思ったから。
 何度もご一緒させていただいたのでわかるのですが、まず、釣り場までの道中が長い。舞鶴なので、車で片道3時間。その間に3っつ山越えがあって、そのうちの一つは大人でも酔うほどのカーブが続きます。車中で退屈しないか、酔わないか、それが心配です。これが一つ。次に、天候。日本海は、天気が崩れやすい。風が吹く日が多く、その影響で波が高くなると、もう大変です。ボートは大揺れで気分は悪くなるし、危険です。だから、よほど幸運でないと良い釣りができません。天気が悪いから行けない、ということになれば、子供達は納得しないだろうな、と、これが二つ目。そして、釣りの方法が三つ目。40号という重い錘をつけて、水深50メートルを探る釣りです。リールの巻き上げが子供達に可能だろうか。その他、船の上でトイレはどうするか、とか、心配し出すときりがない。それに、なにより、カトーさんがたいへんです。往復の車の運転、道具の手配、船の上げ下ろしから運行。すごく負担をおかけしてしまう。だから、考えておきます、と答えておきました。天気予報もよくなかったし。

 それで、一応、平磯海釣り公園、最悪の場合は映画、と考えて準備をしていたところ、カトーさんから電話で、再度、行きましょう、というお誘い。もう決断するしかない、それではよろしくお願いします。当日、朝6時半出発、ということで。ということになりました。仕事の合間をぬって竿やリールの準備、仕掛け作りにエサの手配。酔い止めの薬に、当日の飲み物やパンの買出し。

そして当日。
 カトーさんのワゴンの荷台はフラットになっていて毛布がおいてありました。子供達は横になれるから、往路熟睡。酔う間もなく到着。着いてみると、幸いなことに海は凪。ほぼ無風状態で、そのうえ、うす曇りというまれに見るベストコンディション。先にトイレをすませてボートに乗り込みました。そこには、なんとカトーさんの電動リールがありました。これなら子供でも巻き上げることができます。出発。舳先に陣取った小5長男ハルカは、初めて乗るスピードボートの振動にビビっています。隣の小3長女ヒカリは、ジェットコースターみたいだと嬌声をあげています。うしろのママと小1二女ノゾミことノンタンはなぜか寡黙。そしてポイントに到着して釣り開始!でも、電動リールがなぜか作動せず、ひとまず普通の竿で釣り始めました。いきなり、ママとノンタンチームにあたり。興奮して釣り上げたのは30センチのカワハギでした。それからは皆さん、大活躍。ハルカにレンコ鯛の大型がきたか、と思えば、パパ・ヒカリチームにアマダイ。やがて慣れてきた子供達は自分たちだけで釣り始めました。なかでも末っ子ノンタンの才能には目を見張りました。自分の身長の倍はある竿を脇にはさみこんで、真剣な顔であたりを取ります。「きた!」といってはママに助けられてリールを巻き、ダントツの竿頭。ヒカリも負けず、竿をしゃくります。これは親のひいき目ではなくて、みんな本当に上手です。そしてとても楽しそうだった。

 ここでいつものごとく、話はそれます。みなさん、UAのgolden greenというCD、お聞きになりました?そのなかに[Moor]という曲があるのですが、歌詞の一節にこういうのがあります。「るり色が灰色に染まる景色には、夢の数がまだ足りないよ」。このCD,全体にエコのムードが漂っていて、聞くところによると、UA自身も自給自足の生活を目指しているらしいのですが、かなり地球の環境を意識した楽曲が多い。そしてぼくは、先の歌詞のところで、いつもグッときて、涙腺が刺激されます。多分、子供達の将来のことを考えてしまうからなのでしょう。
 思えば、ぼくたちは本当に便利な生活を享受してきたけど、今、いろんな弊害が顕著になってきて、地球の将来どうなるの、という不安が曇り空のように広がっています。その影響をもろに受けるのが、ぼくたちの次の世代だと思うと、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまいます。UAも子供ができたから目覚めたんだろうけど、問題は本当に深刻で、でも個人的にはなにをしたらいいのかわからなくて、途方にくれてしまうのですが、でも、先の歌詞がヒントをくれました。
 夢の数を増やせばいいんだ。それくらいなら、ぼくは子供達にしてあげられるかもしれない。
 だから、今、子供達にいっぱいいい思い出をあげよう、と思います。そして、真摯に仕事にうちこんでいる親の姿を見せておこうと思います。
 知恵を働かせて、一生懸命頑張れば、いいことがあるはずだよ、そのことを身をもって示すことができれば!
楽しい一日はあっという間に過ぎてしまったけれど、素晴らしい思い出は彼らの宝になったと思います。カトーさん、本当にありがとうございました。

レザール・サンテ!  オーナーシェフ 道野 正
by chefmessage | 2007-10-18 03:41