一年の計は。
2008年 01月 13日
それはですね、まず、人の悪口を言わない、それと、人の批判をしない。僕の性格をご存知の方は、きっと口を揃えてこういうでしょう。「ぜーったい無理!」。実は自分でもそう思っています。でも、無理なことでないと試練にはならない、オレは変われない、というわけで、今のところはなんとかクリアしていますが、元旦早々こんなことがありました。
高校のときの仲間が集まるから遊びにおいで、と尼崎のM君からお誘いがあったので、出かけて行きました。最初は世間話だったのですが、いつか話題は仲間の一人N君の長男のことに。彼の長男はいつの間にか高校を中退して、引きこもりになってしまった。どうやら家庭内暴力もあるらしい。その原因はなになのか、これからどうすればいいのか、ということでそれぞれが懸命にアドバイスをし始めました。中でも、当日の主催者M君は熱心です。彼はクリスチャンであり、障害者援助施設の所長であり、なおかつカウンセラーでもあるので、N君も彼の話を真剣に聞いている。でも、M君には申し訳ないけれど、僕にはすこしありきたりに聞こえました。いわゆるステレオタイプな分析、というか、これはあくまで僕の感じ方にもよると思うのですが。それより、もっと本音で語ろうぜ。M、お前高校のとき生徒会長で、同じく俺たちの親友である元過激派現日本キリスト教団牧師S君と組んで、学校ボロボロにしとったやないか、あれはなんやってん、N、お前も大学推薦蹴り飛ばして沖縄放浪に出たまんま、長い間親に連絡もせず、えらい心配かけとったやないか、あのときお前を動かしてたのはなんやってん。自分がどこへ行けばいいのかわからなくて、何者になればいいのかわからなくて、でもエネルギーばかりあってこころは未熟なままで。あのときに俺たちに必要なものはなんやったか、それを考えようぜ、それが答えになるような気がするねんけど。でも、みんな大人になってしまって、いつのまにか世知にたけ、物分りがよくなってしまった。よき指導者、よき父、よき母になろうとしている。自信がないのは俺たちで、だから子供にも自信を持たせてやることができないんじゃないか、そんな過激な言葉が僕の口から飛び出ようとします。自分たちが示そうとしている理解が、逆に子供たちを苦しめているんじゃないのか、あの時の俺たちの親のように。だから、もっと生身で本音でぶつかったらあかんのか。腹が立ったら、腹立つ、と言ったらあかんのか。
でも、言葉過激派終了を誓った僕は、発言できない。相手に対する悪口と批判ぬきでは語れない。なんとか穏やかに話して理解を得ようとするのですが、うまく出来なくて、自分のつたなさに情けなくて、そのうちなんだか気分が悪くなって、僕は無口になってしまいました。「ミチノ、体の調子でも悪いんか。」。やさしい仲間たちは気遣ってくれます。「悪いけど帰るわ、明日仕事やし。」。
ああ、一年の計は元旦にあり、というけれど、波乱の幕開けになってしまいました。多分、僕の誓いは遠からず破られることでしょう。ただ、N君の立場は人事ではなくて、いつか僕の身にも降りかかってくると思います。そのとき僕はどうするのか。ひとつだけ言えることがあるとすれば、僕はすくなくとも今、自分が何者かを知っている。その分ちょっぴりだけど、強いのではないか、ということです。僕にはささやかだけど、自信がある。僕は料理人で、最高の料理人でありたいといつも願っている。そして、そうあることで僕は救われてきました。
だから、僕は一歩も引けない、と思います。昨年、客数は減少し、経営はずいぶん悪化しました。自信は揺らぎ、明日が見えないような気がして本当に苦しんだ、でもそのことに原因があるのなら、それは僕の責任で、僕の努力が足りなかったせいでしょう。
年頭にメニューを一新しました。皆さんが感じていたレザール・サンテの料理の弱点を、全面的に改めたつもりです。今までよりゼッタイおいしい!からどんどん確かめにいらしてください。スタッフの意見も聞き!今年やるべきことも伝えました。ベストを尽くすのではなく、ベストを超える、それが本当の新年の抱負です。
もうすぐ54歳になります。最強の54歳になりたいと思います。
レザール・サンテ! オーナーシェフ 道野 正