レザール・サンテのこと。
2009年 03月 18日
ただ、経営としてはむしろ後退しました。悔しいですが苦戦の連続で、それは今、いっそうひどくなっています。原因はいくつか考えられるのですが、要はぼくの見通しの甘さだったのでしょう。
同じ豊中にラ・メゾンブランシュというフランス料理店があります。オープン10年目にして、ついに自前の土地・建物を完成させ、今月から新店舗での営業が始まるようです。時々、前を車で通るのですが、立派な建物です。一つの夢の完成形を見せつけられるようで、素直に、素晴らしいと思います。ただ、それと同時にいつも重苦しい気持にとらわれます。ではこの10年、オレは一体何をやってきたのか、と。この差はどこから来たのかと。
努力を怠ってきたとは思いません、でも、驕り高ぶった気持ちはあったのではないか。それが原因で、見誤ったことがいっぱいあったのではないか。敗北感に捕らえられて、体が動かなくなります。
今月、ぼくは55歳になります。料理人としては若くありません。もうピークは過ぎていると言う人がいても不思議ではない年齢です。経営もはっきり言って苦しい。
そんなとき、千里中央のライフサイエンスビルの広場にある石碑に、こう書かれてあるのが目にとまりました。「天の時 地の利 人の和」。普段なら気にも留めない言葉です。だいたいぼくはへそ曲がりなので、こういう、道徳の教科書に載っているような文言にはすぐに拒否反応を示すのですが、何故か妙に気になりました。
たしかにすべてにおいて光明の兆しすらないような状況ですが、料理に関していうなら、ぼくはいまだ熱意を失ってはいません。むしろレザール・サンテを経て、次の段階に行けるのではないかと思っています。たとえ、昔やった料理を再現したとしても、今のぼくならもっと上手にやれるでしょう。もちろん、あたらしい料理も。ただ、現状では人手も足りないし、それを望む客層も厚くはない。ならば場所を移し、もう一度「ル・トゥールビヨン」として再スタートをすればよいのではないか。
追い詰められた時こそ「天の時」かもしれない、そう考えると、懸案だった移転にも真剣に取り組めそうです。「地の利」です。そして、ぼくの店の現在のスタッフのことを考えたら、少人数ですが、最良のメンバーだと思います。苦しいからと投げやりにならず、それぞれが真剣に店のありようを考えていてくれています。休憩時間ごとに、自分たちで作ったチラシをポスティングしに行ってくれたときには頭がさがりました。そして、うちのマダム、最強です。子どもたちの応援も。「人の和」も揃っている。
あと10年、いやまだ10年あります。体力と気力の続く限りこの手、この足で、誰も踏み込めなかったところまで行ってみましょう。
「まだ勝負はついていない。」、胸の中で、そんな言葉が響きます。幸せな人生だと思います。
レザール・サンテ! オーナーシェフ 道野 正