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ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


by chefmessage
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二周年のメニューについての考察

 20年近く営業していた豊中のお店を閉め、この福島に移転してきて、もうすぐ二年になります。オープンしたての頃に、かつてフレンチの名店と謳われた神戸のジャン・ムーランのオーナーシェフだった美木 剛さんがお見えになって、「あなた、よくやるねえ。」と仰いました。美木さんが引退なさったのが確か53歳のときだったから、55歳で、新しい場所でお店をやろうとしているぼくが随分無謀にみえたのでしょう。50歳過ぎたら、フランス料理なんてできっこない、そう断言されたのですが、それから二年たって、それでもぼくは毎日、料理を作り続けています。
 去年の1周年記念のコース料理は、新しい境地を切り開くつもりで冒険させてもらいました。いろんなウェブサイトなどで、「昔、有名だった人」的な書き込みをされて、オレは声変わりしたフィンガーファイブか?(古い!)、すっかり太っておばさんになったリンリンランランか?(覚えている人、古い!)と腹立たしく思っていたので、その反動があったのだと思います。それから1年。狂乱怒涛の試行錯誤を経て、やっと落ち着いてきたような気がします。
 結局、自分のなかで残ったものは、かつての自分の延長上のものでしかありません。すなわち、これまでの料理をさらによいものにするためのテクニック、あるいはメソッドだけが残ったということです。でも、その結果、自分の料理がより自分らしくなったと思います。ミシュランも食べログも気にしなくていい。ただ、自分がよいと思うものを全力でやり続ければいい、そう思えるようになってきました。なにより、これまでで最高の仕事をなしつつある、その手ごたえが大切なのではないか、と思います。
 去年の1周年記念のフェアは、本人たちが驚くほどの盛況でした。今年もそうなるかどうかはわかりませんが、去年来られた方は、ぜひまたお越しください。去年より今年のほうが絶対によい、そんでもって、信じられないほどお得です。そうわたくしは断言いたします
 料理の内容をご説明いたします。ただし、これはあくまで今現在の予定で、当日になってガラっと変更している場合もあります。その点は、ご留意ください。
 まず、前菜は3品です。
  
一つ目、
Merci! イチジクのキャラメリゼと生ハム、紫のサラダ
料理名の前にあるのは、その料理のタイトルです。紫はうちのマダムが一番好きな色です。スペインの三ツ星サン・パウのカルメ女史が、人生で一番のラッキーは主人と出会えたこと、と言ってましたが、ぼくも同じ気持ちです。彼女が支えてくれているから、今のぼくがあります。そして子供たち、店のスタッフ、もちろんぼくのお店に来てくださるお客さま。感謝の気持ちをこめての1品目です。料理を構成する食材はいたってオーソドックスですが、とにかく美しい一皿にしたいと思っています。
 
二つ目
Hommage  フォアグラのグリエとフレンチトースト
 フォアグラを蜂蜜でマリネしてからグリエする、この料理法で今までずっとやってきました。これからも変えないだろうと思います。これはシェ・ワダにいた24年前、和田信平氏から教わりました。彼の料理に対するぼくの敬意は失われることはありません。シナモン風味のフレンチトーストとマスカルポーネチーズを添えて。ミチノ、定番中の定番です
 三つ目
   Sympathie  サーモンのタルタル、トマトとシャンパンのエスプーマ
 一時、現代スペイン料理に傾倒しました。あれやこれや朝から晩まで考え、試しました。マダムに、真面目に自分の仕事しなさい、としかられるほど。新しいものをつくりだそうとするエネルギーがすばらしいと思えました。このごろはその熱狂も冷めてきましたが、いくつかの要素は残っています。それは多分、消えないでしょう。この料理は、そういう意味ではハイブリッドですが、自分の金字塔になるような気がします。
 そして、魚料理。
   Aller   シリコンボックスで蒸した魚と夏野菜
 はやりの調理器具を使います。見ようによっては家庭料理の延長ですが、これは非常に優れものです。昔、ベルナール ロワゾーのお店で働き始めたとき、厨房に山のようなテフロンのフライパンがあって驚きました。ぼくたちの感覚では、それは家庭で主婦が使うものだったから。でも、便利なものに素人もプロもないと思います。要は使い方なのです。さすが、と思っていただきましょう。イタリアの魚醤コラトゥーラとレモン風味で。
この後、マダムのデザート二品、お茶菓子と飲み物と続いて一応、ひとつのコースとなります。その構成とお値段(¥5,250税込み)は去年と同じです。でも、ぼく自身としては次の肉料理で完結すると考えています。これには追加料金が必要になりますが、本音を言うと、皆さんに召し上がっていただきたい。
 肉料理(¥2,625円 追加)
 et retour 子牛の腎臓を詰めた子羊の腿肉、ベーコンとにんにく風味の赤ワインソース

 近頃では、まず、召し上がれない食材をお客様に伺ってからコースの料理を決める、という慣習が定着してきたようです。これはアレルギーの問題があるからです。でもそれが拡大解釈されて、嫌いな食材をすべて仰るかたがおられます。とくに当日になって言われると、どう対処すればいいのかわからなくて、本当に困ることがあります。ぼくは思うのですが、せっかくレストランにお越しになったのですから、食わず嫌いはもったいないのではないでしょうか。そんな気持ちもあって、今回の肉料理はけっこうマニアックな代物にしました。でも、これがフランス料理です。フランス料理を生業とする者が心に描く桃源郷がそこにあります。この料理をおいしく作ることができれば一人前、そう思って挑戦してみます。
 Aller et retour、これはひとつで、往復、という意味です。列車の切符を買うときに使ったりします。魚料理はコンテンポラリーで、未来を感じさせるのですが、でも、戻るのは懐かしいあの肉料理、という思いを込めました。
 で、デザートですが、これはまだ未定。でも、なんだか気合入っているみたいです。あんまり考え込まないように、と助言したら、何言ってんの、お客様はわたしのデザートを楽しみにして来られるんだから、という返事。確かにこの頃は、ぼくの料理よりほめられることが多いような気がします。でも、いいことだなあ、と思います。ぼく以上に一所懸命生きているパートナーを見ていると、ぼくも負けてはいられません。だから今回は、同業の皆さんにもDM出そうと考えています。現役を長くやり続けている人間の底力を、しっかりとお見せしてやるぜ。
 二周年記念メニュー、8月30日から9月30日まで。ご予約はお早めに。
 



       
by chefmessage | 2011-08-05 23:19