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ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


by chefmessage
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二周年フェアを終えて

昨年に続いて、今回のフェアも盛況でした。ぼく自身としては、今の自分の料理や姿勢を世に問う、くらいの気持ちで臨んだので、好評のうちに終えることができて安心しました。ただ、今回は同業の若いシェフたちに積極的にDMを送ったのですが、その反応はいまひとつで、いまさらミチノなあ、と思われているのかとそれがすこしさびしかったけれど、それでもたくさんの方に来ていただいて、とてもうれしかった。
 京都「ラニオン」の宮野夫妻、「レストラン ヨコオ」の横尾夫妻、そして遠路はるばる三重県伊勢市から来てくださった「ボン ヴィヴァン」の河瀬夫妻。本当にありがとうございました。「ダン ル シェル」の井出君と奥さんにも久しぶりに会えました。飴屋の井関さん、彩都のミッキーたち、遠藤さんと美人の奥様、ライターのダンダさん、そして門上さんとあまからの白川さん。たくさんのお客様の笑顔、笑顔、笑顔。人に支えられて自分がある、という実感に捉えられて、一層奮起するミチノでした。
 そうそう、この人たちのことも書かなければ。ぼくよりすこし年下なのですが、料理人としてのキャリアはぼくより長いので、ぼくが勝手にセンパイと呼んでいる、御影ジュエンヌの大川夫妻。
 実はぼくはこの大川センパイを、ずっとライバルだと思っています。それは、はじめて彼のお店で食事をしたそのときから。
 もちろん、料理人としてのスタイルはまったく異なっています。ぼくは、セオリーをはずしたところに料理の妙味を成立させることを好みます。大川センパイは、はずさないところに軸足をおきます。誤解をおそれずに書きます。出会った当初、ぼくは時代の寵児でした。だから、彼のことはノーマークだった。さほど期待もせず、彼のお店に行きました。そして、その「海の幸のサラダ」という凡庸なネーミングの料理にも。
 でも、でてきた料理を見て驚きました。美しかった。食べて、味の複雑さと精緻なバランスに驚きました。たかがサラダやろ。なんでこんなもんに命かけんねん。
 ぼくは畏れました。これに比べると、自分の料理は世間の意表を突いてはいるけれど乱雑で薄っぺらい、そう思ったからです。迷いが生じました。それからずっとぼくは迷ってきたような気がします。
 彼は独創的な人物ではありません。だから、ひとつひとつの仕事をとても大事にします。実に丁寧です。そして、勉強熱心です。時代の流れを読んで、たくみにそれを自分のスタイルに取り込みます。燃えたぎる闘争心を秘めながらも寡黙で、それ故にその歩みは着実です。くやしいけれど迷いがない。あの時に想像した通りです。今は、彼こそが時代の寵児です。ぼくが彼を尊敬し、センパイと呼び、ライバルと思っている理由はそこにあります
 その大川夫妻から予約が入ったとき、ぼくは不安になりました。今回の料理は今の自分に出来るベストだと思っているけれど、彼に通用するだろうか。
 その夜は予約で満席です。トップバッターがセンパイです。賽は投げられました。
メインを出し終えたあと、すこし手が空いたのでホールに顔を出しました。すると大川マダムがいきなりぼくの腕をつかみます。「道野さん、素晴らしいお料理やわ。」。センパイが言います。「ほんとにおいしい。」。「でも、必死やで。」とぼくが言うと、彼が応えます。「その必死さが料理に表れています。」。そしてぼくの手をがっしりと握ります。うれしかったなあ。雲の間からやっと月が顔を出した、そんな気分です。
 帰り際のつかの間のご挨拶。彼が言いました。「ぼくも明日から気を引き締めてやります。」。そして、「道野さん、お互いあの世に行ってからのんびりしましょうや。」。再度、握手してぼくもこころで答えます。「異議なし!」
 世の中にはいろんな人がいて、百ある夢をかなえんがためとかで早々にリタイアし、もう10年以上、毎日優雅に遊んで暮らしている伝説の料理人とかいう方がおられます。その御仁から見ると、ぼくや大川センパイのやっていることは狂気の沙汰でしかないのかもしれません。でも、ぼくたちは多分、死ぬまでやめないでしょう。生きる意味とかなんとか、そういう問題ではありません。なんというか、まだカタがついていないのです。家族に対して、世間に対して、そして自分自身に対して。まだ終われない。まだやるべきことをすべて終えていない、そう思えてならないのです。
 すでにぼくたちは、ぼくたちの一番大きな夢の中にいるのです。そして、それを完決させるために文字通り夢中です。時間は足りるだろうか、体力が持つだろうか。でも、たとえできなくても、それはそれでいいのです。叶わないから夢、かもしれないし。

 迷いはすこしは消えたかな。そうだとすれば、それは本当にたくさんの方々のおかげだと思います。だから、ますますいい仕事をして、皆さんを楽しませたいと思っています。これからもよろしくお願いいたします。
 最後に。
毎日毎日、小さな彫刻刀で檜を削って前衛的デザートを作り、サポートしてくれたマダムにこころから感謝です。
 
 
 
 
 
by chefmessage | 2011-10-09 17:58