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ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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心を揺さぶる料理について

うちの店のマネージャー、原 光(はら ひかる)が遅ればせながらソムリエ試験に合格したので、お祝いに、御影ジュエンヌに食事に行ってきました。前回のメッセージに書いた、大川センパイのお店です。
 当日、ぼくたちが席に着いた時間には、もう店内は満席状態。ランチタイムはいつもそんな感じみたいで、お昼にお客様が来ない店のオーナーとしては、まことにうらやましい。さてさて、飲み物が運ばれてきて、食事が始まりました。
 最初に赤ピーマンのムースが出てきました。いまや古典になった「ランブロワジー」の名作です。次にやってきたのは、例の、海の幸のサラダです。これには毎回、打ちのめされます。きれいでおいしくてボリュームもある。まいりました。
 続いてフォアグラと魚料理はマナガツオ。炭火で焼いたマナガツオはふっくらとしておいしい。メインはチョイスで、ぼくはマダムと二人で白金豚のロースト。その後、デザートが3品でて、コーヒー。
 食後、センパイと雑談。早速、サラダについて質問しました。「あれの仕込みは何時から始めるの?」。というのも、盛ることは慣れればそれほど難しいとはおもわないけれど、準備が大変だろうと想像したからです。答えは、「朝の7時半から」。そうでないと、その日のランチ分が間に合わないそうです。
 ジュエンヌはきっちり満席でも16席です。なのに調理のスタッフはシェフ以外に4人!多分、全員でとりかかるのでしょう。「サラダをやらなかったら、うちの仕込みは激減すると思います。」とセンパイは言います。だから一度、人手が足らないときにサラダをやめたことがあったそうです。そのときのお客様のブーイングはすごかったらしい。あれがないのなら来なかった、とまで言われた、とマダムも苦笑していました。
 料理人の立場からすると、同じ料理を多少の違いはあれ、来る日も来る日も作り続けるのはけっして面白いことではありません。でも、ぼくは思うのです。それがあれば逆にお客様を呼べる、そのような一品を作り上げた、そのことは素晴らしい。
 よく観察すると、構成するアイテムは、ぼくが始めて出会ったころからさほど変化はしていません。旬の野菜が入れ替わるくらいでしょうか。でも、その図柄は時に応じて変わっています。食器も変えています。最新こそ最善、になっています。そこに、センパイのたゆまぬ努力が現れていると思います。
 だから、今話題のミシュランバブルなレストランの名前を出して、それの追随ですか、という言われ方をすると、センパイのそれでなくとも怖い顔がもっと険しくなる、というマダムの言葉には大いに肯けます。
 大川センパイの料理は、自分をことさら大きくみせるために作り上げた料理とは根本的に違うものだと、ぼくも思います。
 こういう例えが適切かも知れません。機能を突き詰めていった結果、美しく見えるものと、最初から美しいと思われるであろうデザインだけを目指して、結果的に使いにくいものになってしまったものとの差。
 あるいは、研究に打ち込んだ結果与えられたノーベル賞と、ノーベル賞を取るためにする研究の違い。
 今年、念願のミシュランの星を取ったあるレストランが、仲間を集めて盛大なパーティーをやった、という話を聞きました。そんなことで喜ぶより、もっと人に喜んでもらえる仕事ができる人間になったほうがいい、なんてことを言うから、ぼくはミシュランには縁がないのでしょう。
 別れ際に、大川くんいくつになった?と聞いたら、51歳という返事。若いなあ、とぼくが呟くと、そんなこと言うのミチノさんだけやわ、と大川マダムに笑われました。
 でも、ぼくたちはわかっています。いくつになっても、目指す場所は同じだと。
見た目は絢爛、でも細部はしょぼい、この歳になると意地でもそんな仕事はしたくない。それよりもむしろ、口にしたとき、すでに心を揺らす料理を作りつづけたい。昨日より今日、そして望むべくは明日はもっと。
 ミチノさん、後を付いていきますから、とセンパイが言います。うん、まかしといて、と答えます。空を仰ぐとうろこ雲が見えました。もう秋なんや。
 ふいに思いました。オレはまだまだやれるで。心がここちよくゆれています。
 
 
 
by chefmessage | 2011-10-25 20:10