人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


by chefmessage
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

2024、年始に思うこと。北陸の友人たちへ。

     2024、年始に思うこと。北陸の友人たちへ。
 もう何年前になるのでしょうか。当時、金沢で「プレミナンス」というフランス料理店のオーナーシェフであった川本紀男さんが、地元の若い人たちを集めて、北陸の生産者さんを巡るツアーを開催していることをFacebookで知りました。それがうちの定休日でもある月曜日だから参加したくて、一面識もなかったのに川本さんにその旨を伝えたところ、是非来てくださいと快諾してくれました。ただ問題が一つ。集合時間が午前6時だったことで、前日に金沢入りしようとしても日曜日に店を留守にすることができません。いろいろ調べたところ、JR大阪駅から出る夜行バスがありました。出発は22時半でJR金沢着5時半。スタッフに「疲れますよ」と言われたけれども、それまで夜行バスに乗ったことがなかったから、むしろワクワクしてチケットを購入。時間通りに乗り込んで金沢に向かいました。川本さんが駅まで迎えに来てくれると言ってたし。

 案の定眠れなくて、やっと着いた、まだ人もまばらな金沢駅の端っこに、上下黒のジャージ姿の大男が中腰になって座っていました。何だか厳つい男だな、と近づいていったら、向こうもそう思ったのか立ち上がって、?という表情をして、こちらを見た。目と目が合って、二人とも一気に笑顔になった。川本さんとの初顔合わせでした。

 それから何度も彼のツアーには参加しました。途中からは「ルセット」の依田英敏シェフも同行するようになりました。これは結構きつかった。夜中に依田シェフがぼくの店まで車で迎えに来て、そのまま眠らずに金沢まで走るのですから。でも、高農園さんやワタリガラスさん、高村刃物さんをはじめ、多くの生産者さんと知り合いになれた。一緒に行った同業者の皆さんとも。「ぶどうの木」米田シェフ、「ENSO」の土居シェフ、「ラトリエ・ド・ノト」池端シェフ、川嶋亨くん、平田明珠くん、黒川恭平くんら若手の諸君。数え上げたらキリがないくらいたくさんの友人に恵まれました。いつしかそのツアーは「青春ドリーム号」と呼ばれるようになりました。その由来は、ぼくが初めて乗った金沢行きの夜行バスの名称が「青春ドリーム号」だったからです。このツアーは、新型コロナウイルスが蔓延して我々の身動きが取れなくなるまで続きました。

 この元旦に能登半島を中心とした地震と津波が発生したことはみなさんご存知の通りです。続々と送られてくる情報は目を覆うばかりで、ぼくは立ちすくむしかなかった。そして、今すぐにでも大切な友人たちのところに駆けつけたいと思った。でも今行って何ができるというのか。
 素人が手出しできる次元ではないのです。むしろ下手な親切ごころで闇雲に動くと邪魔になるだけでしょう。自家用車で乗り込んで、援助のために食料や資材を運ぶ車両の通行を妨げるべきではない。それでなくとも道路は寸断され迂回しなければ現地に辿り着けないし、放置車両も多く、渋滞もしているのです。衣料品や食品も、公平に行き渡る量でなければ混乱が起きるだけです。大量の支援物資が届いても、それを仕分けする必要がある。不必要なものはゴミになるだけです。自分の「善意」が「悪意」になるかもしれないということに留意しなければならない。だから後方支援はむしろ冷静に、しかも持続的でなければいけないとぼくは考えました。
 では何をすればいいのか。

 輪島の池端シェフは自店が壊滅状態になっているのに、毎日1,000から1,500人分の食事を作っているそうです。金沢のシェフたちは川本さんが中心になってチームを作り、朝晩300食の炊き出しをやっている。自分の店は営業できなくはないのに休んで参加しているシェフたち。避難所に向かうためのガソリン代、不足分の食材費、全て持ち出しだと聞いています。同業者として彼らの心意気には感動を覚えます。だから、今のぼくにできることは、その原資を送ることです。幸いなことに「北陸チャリティーレストラン」という確実な窓口が開かれています。

 自分の店にもっとたくさんお客様を呼びたい。そうすれば送れるものも多くなる。今も続いている「蘇ボックス」を一つでも多く買っていただきたい。コロナ禍が落ち着き、役割を終えたかもしれない「蘇ボックス」に再び出番が来ている気がします。
 ぼくはもっといい仕事をしてお客様に喜んでもらわなければならない。今のぼくにできることはそれだと思います。そして利益をあげて還元する。

 あと2ヶ月でぼくは70歳になります。でも、力と知恵を振り絞って働きたいと思う。そんな気持ちにさせてくれる北陸の仲間たちをぼくは心から尊敬しています。そしていつの日にか、また全員で、「青春ドリーム号」で、北陸生産者ツアーに行きたいと思います。

by chefmessage | 2024-01-10 18:04