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ミチノ・ル・トゥールビヨンシェフ道野 正のオフィシャルサイト


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2011年 03月 17日 ( 1 )

 この頃、お客様をお見送りする時のぼくのお辞儀の角度が、これまでより15度くらい低くなりました。というのも、ほとんどの方がお帰りの際に、例の小菓子を買ってくださるからです。そのことが料理をほめられること以上にうれしく感じられるので、お辞儀の角度がマイナス15度になるのです。ぼく達は、料理やお菓子を作ることしかできないから、そのことで力になりたいと思います。
 マネージャーの原が今朝、こんな話をしてくれました。知り合いの美容室に行くと、月曜日がお休みの店なのにスタッフ全員が出勤して仕事をしていた。その日は義援金の日で、カットを2,000円にして、売り上げを全部寄付するのだということ。いい話だなあ、と思いました。
 でも、こんな話も聞きました。うちで5年間働いて、その後、東京のフランス料理店で仕事をしている子がいるのですが、その彼が電話で言うには、東京では予約のキャンセルが相次ぎ、どこのお店も閑古鳥が鳴いてます、オーナー達はみんな、これが続けば店が潰れると頭を抱え込んでいます、ということでした。これは他人事ではありません。実際うちの店でもそういうキャンセルが出ているし、予約の数もがっくりと減少しています。でも、それでいいのでしょうか。
東京は現在、交代停電とかがあるし、交通機関のダイヤも乱れている様子なので、ある程度やむを得ないところもあるかもしれません。余震も完全には収まっていないようだし。でも、関西は幸いにしてそのようなことはありません。だから、「今この状況ではそのような気分になれない。」とか、「被災地の方々に申し訳なくて。」というような予約キャンセルの言葉に根拠があるのかどうか、ぼくには判断できかねます。心情的には共鳴する部分もありますが、ちょっと懐疑的です。
 阪神大震災のとき、いかにも被災者です、というお客様が何組か食事にこられました。ぼくは正直、不思議でした。だからある方に失礼は承知のうえでこう尋ねました。「うちに食事にこられてよかったのですか。今、大変なんじゃないんですか?」。その方は仰いました。「大変だから、無理して来たんです。こういう世界を見失ったらぼく達はどこに向かっていったらよいのか判らなくなってしまいます」。 そういう人たちは、まだ余裕があったんだ、そう思われるかもしれません。でも、その言葉でぼくも救われたような気がしました。その方があの日以来始めて、福島の店に来られました。「ミチノさん、あのときはありがとう。」その言葉を聞いて、ぼくはとてもうれしかった。

 全体に沈鬱なムードが蔓延し、経済が滞留して更に縮小すれば、手助けしようにも力不足になってしまうような気がします。むしろ弱っていない部分が強くならなければ、全体的な修復は不可能なのではないでしょうか。
 だから、浮き足立たず、いままで以上に地に足をつけて、自分達の仕事に励もう、ぼくはそう思っています。そういう変わらぬ日常の生活のなかで、でも、被災地のことを片時も忘れず、自分達にできる精一杯のことをしようと思います。それぞれが身の丈にあった援助を心がければ、いつか復興の日がくるのではないか。悲しみや痛みは消えないでしょうが、喜びもまたやってくる、そう思いたい。
 うちで働いていた北川くんがやってるビストロ、ラ・ブリーズ(新福島)では、マカロンを販売してその売り上げを全額義援金にするそうです。うちのお店と同じ筋にあるイタリアン、ラ・ルッチョラもなにか始めたいと言っています。みんな客数の減少に悩み苦しみながらも、被災地の方々の力になりたいとこころから願っているのです。
 ぼくはこの頃、この国ってけっこういい国なんじゃないだろうかと思い始めています。だから今日も、ぼくのお辞儀はマイナス15度です。
 
復興支援に向け、サクラのメレンゲ増産中
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by chefmessage | 2011-03-17 22:02